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アーカイブズ資料の閲覧資格制限? [2013年公文書管理問題]

香川県で公文書管理条例を策定する動きが進んでいる。
これ自体は非常に良いことだと思うのだが、その内容に大きな問題があることがわかった。
それは、香川県文書館で「特定歴史公文書等」を閲覧できる権利を持つ人を事実上「県民関係者」に限定するということである。

まず、その案文の関係する所を。
「香川県の公文書等の管理に関する条例(仮称)案の骨子」
http://www.pref.kagawa.lg.jp/kgwpub/pub/cms/upfiles/jyoureiannno%20gaiyou_15360_1.pdf

この12には、文書館での利用請求を行える者として、次の様に書かれている。

次に掲げるものは、館長に対し、特定歴史公文書等の利用を請求することができる。
(1) 県の区域内に住所を有する個人
(2) 県の区域内に事務所又は事業所を有する個人及び法人等
(3) 県の区域内の事務所又は事業所に勤務する者
(4) 県の区域内の学校に在学する者
(5) (1)から(4)までに掲げるもののほか、県の機関が行う事務又は事業に関し利害関係を有するもの


(1)から(4)までは県民関係者ということになる。
(5)は「利害関係」がないと認められない。
よって、県民以外はその申請する文書に対する「利害関係」がないと、閲覧を請求することができない。

ただし、25の「特定歴史公文書等の任意的な利用」の(1)に次の記述がある。

館長は、12 の(1)から(5)までに掲げるもの以外のものから、特定歴史公文書等の利用の申出があったときは、これに応ずるように努めるものとする。

つまり、県民以外でも「任意的」に利用を認めるということになっている。
ということで、一応は県民以外でも特定歴史公文書等を文書館で利用できる。

また、この条例は「特定歴史公文書等」を

① 実施機関から文書館に移管されたもの
② 議会の議長(以下「議長」という。)から文書館に移管されたもの
③ 法人等又は個人から文書館に寄贈され、又は寄託されたもののうち、行政文書に類するものとして知事が指定するもの


と定義している。

この③は古文書などの寄贈された文書を、特定歴史公文書等から外して公文書管理条例の適用外にしようという考え方だろう。(ただし、知事が行政文書に類すると「指定」すれば、特定歴史公文書等になる。)
適用外にする理由は必ずしも明確ではないが、閲覧の資格が制限される特定歴史公文書等から古文書などを外すことで、これらの閲覧の自由を残したということなのかもしれない。

なおこれは、公文書館に収蔵されている資料を私文書、古文書を問わず「特定歴史公文書等」としている国の公文書管理法とは異なる基準である。

まとめてみよう。
a)文書館の収蔵資料のうち、古文書・私文書は公文書管理条例から外す(ただし知事が指定したら組み込まれる)
b)文書館の収蔵資料のうち、行政文書(特定歴史公文書等)の閲覧は県民関係者(利害関係者含む)に限られる。ただし、任意でそれ以外の人に見せるように努力する。


「結局は見れるんならいいじゃないか」と思う方もおられるだろう。
だが、県民以外に「任意」で見せるということは、県にとって都合の悪い閲覧者(他県との紛争になっている事件など)の閲覧を拒否できるということだ。

また、個人情報等で非公開になった文書に対し、「任意」で請求している人は不服を申し立てることができない。つまり泣き寝入りをせざるを得ない。
さらに、閲覧を求める際には、毎回「理由」を説明して「許して」もらわなければならない。

同じ閲覧が可能な規程であっても、「閲覧の権利」を認められているか否かで状況は全く異なる。
つまり、この条例案は「県民関係者以外の閲覧者を差別します」と言っているに等しいのだ。

では、なぜこのような条例案が出てきたのだろうか。
これは簡単な話で、香川県情報公開条例が情報公開請求の申請資格に上記のような制限を定めているからである。
香川県情報公開条例では、第5条で上記の公文書管理条例案の12と同じ制限をかけている。
そして、県民以外で利害関係者でもない人に対しては、「応ずるように努める」との努力規定を設けている(第20条(1))

つまり、この情報公開条例の規定をそのまま公文書管理条例案に当てはめたのである。

ちなみに、このような情報公開請求の申請資格を制限している条例は、都道府県レベルではレアケースである。
日弁連の「自治体の情報公開条例の改正を求める意見書」(2010年4月16日)によれば、国の情報公開法を初めとして、多くの自治体では、情報公開請求の申請資格を「何人も」、つまり誰でも可能にしてある。
これは、県を超えて発生する問題(例えば環境問題)などに対して、誰でもアクセスできる状態を用意しておくことが望ましいという考え方などが理由となっている。

都道府県レベルで現在申請資格に制限があるのは6都県。(引用した日弁連の報告書に一覧があるが、その後、島根県と広島県で資格制限が無くなった。)
分類すると2つのパターンになる。

A:「公文書の開示を必要とする理由を明示」すれば、県民以外にも申請資格を認める。
埼玉県、千葉県、東京都

B:「利害関係」がある場合に申請資格を認める。それ以外の人には「応じる努力をする」。
栃木県、石川県、香川県

日弁連はこれを「何人も」にするべきだと主張している。

香川県はこのBにあたっており、この規程をそのまま公文書管理条例案に引き写したことで、これまで閲覧資格に制限が無かった文書館に問題が飛び火することになった。

この条例案の冒頭には「本条例案については、検討途中であり、今後変更することがある。」とのただし書きがある。
是非とも条例案が議会に出されるときには、この点は改善をしていただければと思う。


なお、今回の条例案、実はパブリックコメントが募集されていた
私は気づかなかったし、こういったことを良く調べている友人すらも気づいていなかった。
なぜ、文書館の側が、こういった問題のある条例案のパブコメが募集されている時に、関係者に連絡をしなかったのだろうか。

文書館が県庁の中で立場が弱いことは良くわかっている。
古文書や私文書だけでもなんとか閲覧資格制限から救おうとしたのかなと思える文面なので、努力はされていたのではないかと思う。

だが、なぜこのパブコメが出たときに、アーカイブズ関係者や歴史研究者に助けを求めなかったのだろうか。
それが中立義務に違反するというのであれば、「パブコメを募集していますのでよろしく」と言うだけでも良かったではないか。(時折私に対してそういう情報の提供をして下さる方もおられる。)

気づいて読めば、そのまずさは絶対に関係者ならわかる。
そういった呼びかけだけでもなぜできなかったのだろうか。
アーカイブズの横の連携が薄れているということなのだろうか?(全史料協から脱退する公文書館も相次いでいると聞いているし。)
歴史研究者(特に近現代史)とつながりがなかったのだろうか(知らせたけど動かなかったのか、動いていたが私が知らないだけか)。

もちろんパブコメは形式的なものでしかないと言う人もいるだろう。
でも、批判的な意見が集まれば、県議会で議論する際に意見を反映させようとする議員が現れるかもしれない。
諦めてしまってはなにも変わらないのだ。

今回の問題はもちろん香川県に固有の問題という側面もあるが、アーキビスト間の横の連携が機能していれば・・・、という感想が最も強い。
アーキビストの資格制度がやっと立ち上がった今、アーカイブズへの無理解から降り注ぐ理不尽な状況を跳ね返すための横断的なつながりというのは必要不可欠なのではと改めて感じた次第だ。

追記4/1
条例案はそのまま可決されて成立しました。
これをどう反面教師にできるかが問われるような気がします。
http://www.pref.kagawa.lg.jp/kgwpub/pub/cms/detail.php?id=16892

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