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「閣議議事録等作成・公開制度検討チーム」の報告書を読む [2012年公文書管理問題]

岡田克也副総理の下で行われていた「閣議議事録等作成・公開制度検討チーム」の報告書が2012年10月24日に発表された。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gijiroku/kettei/241024houkou.pdf

このチームが発足するまでの経緯はすでにブログで書いているのでそちらを参考にして下さい。

「閣議議事録等作成・公開制度検討チーム」の開催
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2012-08-05

今回の報告書に何が書かれているのかを解説してみようと思います。
ただし議事録の公開が遅れているので、多くは資料を見ながらの解説に留まります。

まずは前文。

 閣議の議事録等については、閣僚同士の議論は自由に忌憚なく行われる必要があること、また、内閣の連帯責任の帰結として、対外的な一体性、統一性の確保が要請されていることから、これを作成し公開することは適当でないとされてきた。
 昨年4月に施行された公文書等の管理に関する法律(平成 21 年法律第 66 号。以下「公文書管理法」という。)は、閣議等の政府の重要な会議について一律に議事録等の作成を義務付けるものではない。
 しかし、原子力災害対策本部を始め東日本大震災に対応するために設置された会議において議事録等が作成されていなかった問題を契機として、政府の重要な意思決定にかかわる会議については、「行政が適正かつ効率的に運営されるようにする」とともに、「現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにする」という同法第1条に掲げられた公文書管理制度の目的に照らし、議事録等を作成し、保存していくことが望ましいのではないかと考えられるようになってきている。


ここまでは過去の経緯。
原子力災害対策本部の議事録未作成問題をきっかけに公文書管理委員会で議論が行われ、これまで作られていなかった閣議などの議事録についてどうするか考えようという流れ。

 なかでも閣議は、内閣の最高かつ最終的な意思決定の場であるため議事録等を作成することが望ましいと考えられるが、その一方で、議事録等が比較的短期間のうちに公開されれば、高度に政治性を有する事柄も含めた閣僚同士の自由かつ忌憚のない議論の要請や、憲法上の連帯責任の帰結としての内閣の一体性、統一性の確保の要請を満たすことができなくなるおそれがあるという問題がある。
 この点について、我が国と同様に議院内閣制を採用するイギリスやドイツにおいては、記録の作成・保存と公開は分けて考え、閣議の議事録等を作成・保存した上で、一定期間は原則非公開とすることにより、このような問題を回避している。
 このため、当検討チームとしては、このような制度を参考にしつつ、以下の方向性により、閣議等の議事録を作成し一定期間後に公開する仕組みを制度化することとし、公文書管理法を改正して所要の規定を置くことを提案する。


閣議は内閣の最高かつ最終的な意思決定の場である。
だが、明治期の内閣制度発足以来、ずっと「議事録」は作られていなかった。ただし、官房長官や副長官などによる「私的メモ」は残っていることもあるようだ(第1回会議の御厨貴氏の発言→議事録7ページ目)。

現在作られていない主要な根拠は、憲法第66条第3項の「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。 」にある。
「連帯して」責任を取る以上、閣議は「全会一致」が原則であり、もし閣議の中で議論が割れたとしても、表向きには意見の相違が明らかになってはならないとされている。
また、公開されると自由な議論が妨げられるというありがちな理由も組み込まれている。
詳しくは第1回の資料5-1にコンパクトにまとめられているので参考になる。

なおこの資料5-1によれば、初閣議の際には、官房長官から「公表すべき事項は内閣官房長官から統一的に公表している。各閣僚におかれても,閣議や閣僚懇談会の議論を外部に漏らすことは,厳に慎んでいただきたい」との釘が刺されているようである。

しかし、そもそもこの論理には飛躍がある。
引用文のイギリスとドイツの例を挙げるとしているところに書かれているように、「記録の作成・保存と公開は分けて考え」るべきである。
「すぐに公開できない」=「議事録を作成しない」というのは論理的におかしいわけで、「作成したけれどもすぐには公開できない」というのが筋論である。
今回の報告書はこの筋に沿って改革案が作られているのが特徴である。

それでは本文。

1.議事録の作成義務
 閣議等(閣議及び閣僚懇談会をいう。以下同じ。)については、政府における意思決定に至る過程として特に重要であることに鑑み、議事録の作成を法律上、義務付けることとする。
 意思決定に至る過程の記録としての議事録は、各種政策判断に当たっての参考資料として「行政の適正かつ効率的な運営」に資するとともに、現在の国民への説明のためのバック・データとして、また、後世の国民が政策を検証するための歴史資料として「現在及び将来の国民に説明する責務」を全うすることに資すると考えられる。

(1)議事録の記載事項
 意思決定に至る過程の記録として法律上の作成義務を課すという趣旨を踏まえ、議事録には、閣議等における発言者名及び発言内容を記載する。


まず「閣議」と「閣僚懇談会」について。
「閣議」は政府の最高決定の場であるが、事前調整が終わったものが提出されるだけなので、実質的な議論はほとんど行われていないようである。
そのため、閣議後に「閣僚懇談会」が開かれ、ざっくばらんな意見交換を行っているようである。
よって、「閣議」の議事録だけを残してもほとんど意味がないと思われるため、意思決定過程に関わる「閣僚懇談会」に議事録の対象を広げたというところである。

なお、事前の案では「閣議における主要な発言を記載」となっていたのが、最終では「閣議等における発言者名及び発言内容を記載」と直されている。
もし前者の書き方であった場合、いわゆる「議事概要」で良いことになり、スカスカな議事録が作られる可能性が十分にありえた。後者の書き方になったということは、おそらく会議の場で委員から批判があったのではないかと思われる。

2.一定期間経過後の国立公文書館への移管義務
 公文書管理法では、一般的な文書の保存期間や移管・廃棄については、行政機関の長が判断することとしている。
 しかし、閣議等の議事録については、歴史公文書等としての重要性に鑑み、作成から法律で定める一定期間を経過した時点で国立公文書館への移管を義務付ける。
 国立公文書館への移管後は、公文書管理法に基づき、一般の利用に供し、利用の促進を図る。


閣議等の議事録は必ず国立公文書館に移管せよというルール。
これは当然必要。

(1)移管までの期間
 移管までの期間については、①公文書管理法に基づく閣議資料の保存期間(業務上必要な期間及び歴史公文書等として国立公文書館に移管し公開されるまでの期間)が30年とされていること、②諸外国の閣議等の議事録が移管・公開されるまでの期間が内閣の一体性、統一性を確保しつつ自由な意見交換を行う必要性に鑑みて30年とされていること(イギリスは、現行は原則30年だが、2013 年から10年をかけて20年に移行。ドイツは原則30年)などを踏まえ、原則として30年とする。
 ただし、諸外国の例なども踏まえ、特に必要な場合にはこの期間を延長することができる仕組みについて検討する。


国立公文書館への移管は、イギリスなどの制度なども参考にした上で、30年経ったら「原則」行うことにする。
ただし、「移管せずに保存期間を延長することも可能」という文章が入っている。
これは、安全保障等に関するものなどを考慮してということのようである。

移管されるのはよいのだが、やはり30年で強制的に移管をするべきであると私は考える。
もし、安全保障上等の問題があれば、公文書管理法に基づいて「利用制限が適切であるとの意見書」を官房長官が提出すればよい。国立公文書館はそれを「参酌」しなければならないと定められている。

おそらく内閣官房等が気にしているのは、公開するか否かの最終決定権が「国立公文書館」の側にあるという点に不安を感じているということなのだろう。
つまり、「国立公文書館の判断力を信用していない」ということである。

ただ、もしこれを認めてしまえば、安全保障等の案件を恣意的に国立公文書館へ移管しないなどの問題が生じるのは明白。
そして、往々にして過剰に隠される可能性が十分にありうる。
やはり、国立公文書館のアーキビストが、専門家の判断から公開非公開を決めることが望ましいと思うので、どのような内容であっても移管は行われるべきである。

(2)公文書管理法に基づく一般の利用等
 移管後は、公文書管理法に基づき、国立公文書館において一般の利用に供するとともに、デジタル化してホームページ上で公開するなどにより利用の促進を図る。


途中の案から「デジタル化」という話が挿入され、国立公文書館に移管された後にデジタルアーカイブで公開することを勧めることになっている。
これはもちろん良いことだと思う。

3.移管までの期間の非公開
 内閣は、憲法上、国会に対して連帯責任を負い、外部に対しては一体として行動する義務を負っているため、意思決定に至る過程の閣僚間の議論は外部に漏れてはならないものとされている。
 閣議等における閣僚間の議論が公開された場合、高度に政治性を有する事柄も含めた閣僚同士の自由かつ忌憚のない議論の要請や、憲法上の連帯責任の帰結としての内閣の一体性、統一性の確保の要請を満たすことができなくなるおそれがあるという問題がある。
 このため、閣議等の議事録については、国立公文書館に移管されるまでの間は、非公開とする。

(1)議事録の公開禁止
 議事録は、法律上、国立公文書館に移管するまでの間は、保有する行政機関が公にすることを禁止する。

(2)行政機関情報公開法を適用除外
 一定期間が経過する前に閣議等の議事録が開示される余地を残すことは、閣議等における議論を萎縮させるおそれがあり、議事録の作成・公開を制度化する趣旨を損なうと考えられるため、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成 11 年法律第 42 号)は全て適用除外とする。


作成された議事録は国立公文書館に移管されるまで、つまり最低30年間は非公開とするということである。
しかも情報公開請求があっても全て不開示にするということであり、相当に厳しいものであると言える。

情報公開法の適用については、当初の案では2つ挙げられていた。

A案は、情報公開法の第5条第6号の「公開すると事務などの適正な遂行に支障を及ぼす情報」を適用して議事録を不開示とするが、「公益裁量開示」(首相が公益があると認めた場合に議事録を開示することができる)ができるというものである。
ただ、「公益裁量開示」は、場合によっては対立する政党の首相が前政権の政策の暴露するために利用するおそれがあるため、第三者機関(公文書管理委員会を想定?)に意見を聴く仕組みを設けることを検討するとされた。

B案は、議事録を情報公開法の適用除外を法的に定めるということである。
例えば、刑事訴訟に関する書類や押収物は、刑事訴訟法によって情報公開法の対象外になっており、こういうものを想定していると思われる。

両案とも原則30年非開示というのは共通しているが、前者は開示される余地が残されているのに対し、後者は開示される余地は残されていない。
結局、後者が選択された。

そもそも、30年間絶対に不開示というのが腑に落ちない
30年経たずとも公開して問題のない案件はあるはずである。
情報の内容を吟味してその都度開示するかどうかを決めるべきだというのが情報公開法の理念であるはずだ。
また、もし30年非公開を法定化してしまった場合、例えば今回の原発事故の検証を行う際に、公開される報告書には閣議や閣僚懇談会で何が議論されたのかを書けないということになる。

よって、最低でもA案にしておくべきであり、B案を選んだのは問題があると言わざるをえない。
この点は「法制化」しないといけないため、まだ議論の余地は残されているだろう。
法案として出てきた時には注意する必要がある。

4.閣僚会議の取扱い
 閣議等と同様の法的措置を講ずるべき閣僚会議の有無、閣僚会議の議事録の作成・公開について運用上講ずるべき措置の方向性、運用上の措置の対象とすべき会議の範囲(省議など閣僚を構成員とする会議全般の取扱い)等について、引き続き、当検討チームで検討を行い、早急に結論を得るべきである。


閣僚会議とは、閣僚が複数人出席して行われている会議のことである。
この文面を見ればよくわかるとおり「先送り」された。

当初の案では、閣議と閣僚懇談会と併記されて、これも議事録作成の対象となっていた。
しかし、最後の案で外されることになった。

理由は「出席者や運用方法が多様」であると報道されている(『日経新聞』10月10日)ので、おそらく委員の中から異論が出たということなのだろう。

作業チームの第2回資料3に、閣僚会議における議事録等の作成・公表状況が一覧となって公開されている。
この一覧表は非常に興味深いので是非ともご覧頂きたいが、閣僚が複数絡んでいる会議にもかかわらず、議事概要レベルも作っていないような会議すらある。
また、議事録を作っているような会議も少なく、公表にもあまり積極的ではない。

確かに設置根拠が様々であることは一覧表を見てもよくわかるが、そもそもの公文書管理法の理念を考えた場合、政策決定過程に重要な意味を持つ閣僚会議の記録がきちんと取られていないのはやはり論外ではないか。
逐語の議事録が必要かは議論があるだろうが、何を議論したのかをきちんと記録する必要は当然あるはずだ。

なお、閣議や閣僚懇談会の記録と同列とされると、公開までに30年という枷がかけられるので、別々に考えるというのは悪くはないと思う。
閣僚会議については、チームでそのまま議論を続けるということのようであるので、今後の議論を注視したい。

今回の改革は法制化が必要になるものもある。(ただ閣議や閣僚懇談会の議事録は法制化しなくても取れるはずだが。)
また、法制化しておかないと、政権交代した時に議論が投げっぱなしにされる可能性がある。
この問題は超党派で合意すべきものであるので、何とか良い方向に行ってほしいと願っている。

追記1
この件については、情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんが詳しく書かれているので、合わせて参照されるとわかりやすいかと思います。

閣議等の議事録の作成・公開制度の方向性
http://johokokai.exblog.jp/18552291/

追記2
今回の検討チームがイギリスとドイツで調査してきた記録が結構面白い。
政治学系の方などは見てみると面白いかも。

第3回資料2「「閣議の議事録等の作成・一定期間経過後公開ルール」 に関する海外現地調査について」
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gijiroku/sagyou3/3siryou2.pdf

関連して第1回資料4-3「英国の閣議及び閣僚委員会について」も。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gijiroku/sagyou1/1siryou4-3.pdf

「ラドクリフ報告」(元大臣が回顧録を書く場合、閣議で話した内容は15年間は基本的には書いてはいけないなど)が興味深い。
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