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NHKアーカイブスについて聞いてきた [2011年公文書管理問題]

12月21日、所属大学のプロジェクトの関係で渋谷のNHKにおいてライツ・アーカイブズセンターの関係者の方と会う機会があり、NHKアーカイブスについて色々とうかがってきた。
メモ代わりに、まとめて書いておきたい。

なお、私がメモしたことなので、正確に聞き取れていない点、勘違いした点などあると思いますので、参考程度に考えてください。
関係する記述はある程度固めておきますが、基本的にバラバラに列記しておきます。

(ここから)

・NHKでは以前は「放送」の名の通り、流しっぱなしで保存することを考えていなかった。また、著作権法上でもNHKが一からすべて作ったもの以外は6ヵ月しか保存できないという規定があったため、保存することも難しかった。また、1960年代から使われるようになったVTRテープは上書きして繰り返し使えるので、コスト削減のために何度も利用されていた。よって上書きされた番組は残っていない。

・1985年から番組を残そうということになり、文化庁にも許可を取って番組ライブラリーを整備した。その後、保管スペースの問題が出てきたので、川口のラジオ送信所があったところに施設を建てることになった。
・その際に「活用のため」という理由で予算を取った。設立理念として「活用」がまず第一に存在する。施設を作る際も一般公開場所の確保は当然であった。

「活用」が大前提。NHKは公文書館などとは違い、保存や公開の義務は全く負っていない。ただ、受信料で成り立っている組織である以上、視聴者に還元することが必要。
・アーカイブスは建物の建築に80億かかっている。毎年の予算で一番かかるのは「保存用メディア」。1本2万円かかり、さらに再利用できないので、全ての番組を保存しようとしたらそれだけで1年で億単位のお金をかけざるを得なくなる。

基本的には記録媒体の置き換えは行っていない。ただし、再生機器が無くなりそうなものについては置き換えを行っている。また、フィルムなども、太さの種類はそれほど多くなくても、音声がフィルムについているような特殊なフィルムがあったりなど、フォーマットにはかなりバラツキがある。でも、全てに対応する再生機器は残っていないので、再生が全て完全な形で再現できなくても、そのあたりは割り切って仕方がないと思っている。

映像のデータベースにはメタデータを付けている。いま放送しているものは、「放送管理システム」に出演者や内容の情報、著作権等の情報も書いてあるため、その情報をそのままアーカイブスのデータベースに流している。極力アーカイブス側が新たに情報を打たなくて済むようにしている。

番組製作の際には、現場に著作権処理用のフォーマット文書を渡してきちんと許諾を取ってくれと言っているが、なかなか守ってもらえない。また、権利意識が強くなっているので、「放送ならいいけど、永久に保存されるのは・・・」という人も多くなっていて簡単ではない。また、「保存」すると言うと、出演料以外のお金を要求されることもあるので一概に強制できない。現場にとっては「放送される」ことが第一であり、余計なトラブルは抱え込みたくないのが人情。

過去に放送されたものについては、タイトルしかデータベース化していない。ただし、番組製作の際の資料として使った番組については、その際に調べた情報をメタデータとして打ち込むことにしている。
・よって、過去の映像は系統立ててメタデータを付与することをしていない。あくまでも「使った際に付ける」ことしかしない(使わない映像にメタデータを付けるのは「無駄」)。映像を探すのはプロデューサーなどの「勘」。

・番組を作る際に利用した素材については、重要な番組(シルクロードなど)では保管されているものもある。整理してメタデータを付与(映像シーンごとに)。しかし、取材記録は制作者自身の資産になっていることが多いため、映像が何かわからないケースもよくある。
・地方局に保管されている映像もデータベースには入っている。(参考:映像そのものはどうやら川口には集めていないようだ。)

・放送の場合、基本的には「放送に利用する」という所でしか許諾を取っていないケースが多い。そのため、「保存」するためにも新たな許諾が必要となった。過去の映像の場合、権利者団体などと話し合ってルールを決めていった。また、神社仏閣の中では「1回の放送なら良いが・・・」といった形で許可を得て撮影したものもあり、そういったところも一つ一つ許可を取ってきた。

ニュース番組は「見逃し」でのオンデマンド配信(1週間)しかしていない。その理由は「ニュースはその時のものでしかない」から。アナウンサーは3日後に違うことを言うことも当然ありうる。そのため、ニュース映像は短期間しか公開しない。(参考:NHKのトライアル研究においても、ニュース番組を見れてもアナウンサーの声などが全てカットされているらしい。)
過去のニュース番組を公開しないのは、これに加えて著作権処理が面倒くさいというのもある。コメントを求めた有識者や写した映像に出ている方などからいちいち保存や公開の許諾をもらうのも手間がかかる。

「戦争証言アーカイブス」で公開している元兵士達のインタビューは、元から公開する予定で許諾などもすべて取って取材を行っていた。
NHKはインターネットで自由に映像を公開できないことになっている(事業関係のものしか上げられない)。ただし、歴史的に重要なものなどは認められており、「戦争証言アーカイブス」はその一環として許されている。

・現在は映像は保存できないもの(海外から買っているドラマなど)以外は原則残している。保存スペースの問題は、いずれ保存媒体も小さくなると思うので、それほど心配していない。

NHK的には保存している映像は全て一般公開しても構わないのだが、法的な問題や人権などの問題がどうしても大きい。例えばある夫婦を撮った映像があったとして、その後離婚してしまった場合、元の映像を流して良いのかというレベルの話も問題になりうる。また、ある番組でAさんを中心にストーリーを作った所、取材したBさんから「あの描き方は納得いかん」と抗議されて、結局二度と使えなくなってしまったようなものもある(某○○○○○○Xの一部の番組など)。こういったものの公開は、やはり慎重にならざるをえない。

(ここまで)

話をうかがっていて気づいたことは「発想が公的なアーカイブズとは違う」ということだ。
公文書館などでは基本的には資料は平等に扱う。(もちろん「原則」でしかないが。)
なので、目録を作成する際には一点一点網羅的にデータを拾っていく。「この資料は重要だから目録に詳しく記載し、他はタイトル以外データを付けない」という発想にはならない。
つまり、「保存・整理」が基本にあり、そこから「活用」があるのだ。

一方、NHKアーカイブスでは「活用第一」であり、保存・整理などはそれに伴うものとして位置づけられている。
つまり、極端な言い方をすると「活用できない資料は無駄」という発想になっている。
その際に持ち出される論理は「受信料で経営されているから」というものである。
つまり、利用できない資料を抱えることは「視聴者に説明がつかない」というのだ。

これが良いか悪いかの判断はできない。
NHKの置かれている状況を考えると、おそらくそういう論理を構築しなければアーカイブスが作られることも無かったと思う。
実際に話の節々から察するに、アーカイブスがなぜ必要なのかという点を内部からも常に問われる立場にあるようだ。
その時に「活用する」という論理を前面に出す以外に、生き残りようもないというのは理解できなくはないのだ。

ただその論理は、NHKにとって不都合なものが隠されることにつながってくる可能性がある。
例えば、ニュース番組のアナウンサーの声を消すという発想は、「過去に言ったことを追及されることを怖れている」ようにしか見えない。
今回の震災の時の報道を検証しようとした場合、その時その時でアナウンサーが何を話していたのかは重要な意味を持つことになる。
アーカイブズ的な発想ならば、むしろそういったものは残して公開するということになるのだが、NHK的にはおそらくそうはならないということなのだろう。

結局は、映像保存をNHKの努力に任せているということ自体の限界であるように思える。
日本ではどうしても著作権の問題が非常に大きく(あとは肖像権の問題もあるんだろうが)、法的な部分を変えないと、今のNHKアーカイブスのあり方は現状では仕方がないのだと思う。
やはり本来なら、フランスのように、国が全てのテレビ放送を録画保存し、それを研究のために公開するというシステムが必要なのではないだろうか。

日本近現代史を専攻する歴史研究者は、資料が公開されていないために、ラジオとテレビという媒体を「無かった」ことにして研究をせざるを得なくなっているのが現状だ。
本来ならば、音声や映像は多くの人々に影響を与えていたはずであるにもかかわらず、資料自体が無いので証明しようがないのだ。
NHKだけでなく他の民放などにも保存されている映像記録などが、研究のために自由に使えるようになることは、歴史研究者(だけでなく、他の分野の研究者も)からは待ち望まれていることである。
その意味でもNHKのトライアル研究は、非常に重要な意味を持っており、是非とも継続的に続けていただきたい事業である。

断片的ですが、今回の訪問で考えたことを述べてみました。
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