SSブログ

公文書管理委員会第10回傍聴記 [2011年公文書管理問題]

9月8日の公文書管理委員会の傍聴に行ってきたので、その報告を。
第10回目ではあるが、大震災の関係もあり、7,8,9回は「持ち回り」という形で、各委員一人一人に了承を取るという形式で行われた。そのため、実際に会議自体が開かれるのは1月19日以来、半年以上ぶりである。
なお、第8回では東日本大震災復興対策本部の行政文書管理規則が審査されている。

今回は、主に公文書管理法の施行状況についての報告が行われた。
資料に沿って簡単に解説とコメントをしていく。(資料一覧→こちら

資料1-1  公文書管理法の施行状況(公文書管理制度の周知(内閣府の取組み)

内閣府では、4月に管理法の運用の手引きを作って各行政機関に配布をした(配付資料は資料一覧参照)。
また、4月1日に閣議において、蓮舫行政刷新相から公文書管理法施行についての発言があったようである。

内閣府からの講師派遣実績の一覧表もある。
基本的には「リクエストベース」で派遣を決めており、内閣府から働きかけをしてはいないようである。(旅費予算の都合もあるから、旅費を用意してくれると行きやすいみたいな話し方をしていた。)


資料1-2  公文書管理法の施行状況(公文書管理制度の周知(行政機関の取組み)

各行政機関における法の周知徹底についてのデータ。
2の周知状況の表を見ると、熱心に周知をした所と、メール送るぐらいで済ませたっぽい所とが分かれているように見える。
また、3の研修状況は、もう少し詳しいデータでないと確たる事は言えないが、新規採用研修や管理者研修はきちんとやっているようだ。


資料1-3  公文書管理法の施行状況(公文書管理制度の周知(国立公文書館等の取組み)

国立公文書館等での法の施行状況。
国立公文書館の「専門的助言」によって、約23万件の廃棄チェックのうち、50件が廃棄から移管に転じたとのこと。
質疑の応答によれば、どうやら廃棄リストを各機関に作ってもらう際に、各行政文書管理規則における「保存期間満了時の措置の設定基準」のどれに当てはまるかを記載してもらっているようだ。

23万件のチェックをするという作業を考えると、そのリストの類型を見て、ファイル名だけ見てバサバサ切っていくしかないだろう。
よって、実際にファイルそのものを見ていることはほとんど無いのではないだろうか。

これでチェック機能がうまく機能していれば良いのだが・・・。
作業に関わる人の物理的限界を考えるとこれ以上は望めないのかもしれない。
ただ、きちんと作業人数を増やさないと、次第に「作業員の人数に合わせた仕事」の仕方になってしまうような気がしている。


資料2  国立公文書館等における利用請求の状況

国立公文書館等における利用請求等の状況。
「利用請求」というのが、公文書管理法上の利用請求権を行使したケース。要するに、開示不開示の審査を行っているケース。
「利用請求権外の利用」というのは、国立公文書館や外交史料館などで以前から行っていた「訪問すればすぐ見れる資料」の利用のこと。審査がすでに終わっている。

この表を見ると、国立公文書館と外交史料館はそのほとんどの利用が「利用請求権外の利用」であるのに対し、宮内公文書館はほとんどが「利用請求」になっていることがわかる。
特に宮内公文書館は、利用請求だけで1000件も抱えており、処理の遅れを生じているようである(私の前に書いたブログを参照)。

この差は、公文書管理法施行前に、どれだけその文書館が資料公開に積極的であったかの差である。
宮内公文書館が、そのほとんどを「利用請求」として受けざるをえない理由は、公文書管理法施行前と施行後の審査基準が大きく異なるためである。
私が前に書いたブログで指摘したように、施行前と後に同じ文書を請求すると、開示される情報が格段に多くなっていることが分かる。
このため、宮内公文書館では、施行前にすでに請求を受けたことのある文書でも、すでに全面公開になっている文書以外は、再審査を行わざるを得ない状況になっている。(宮内公文書館における「利用請求権外の利用」は、おそらく「全面公開」が決まっている文書の閲覧にあたることになるだろう。)

この表でもう一つ注目したいのは、「異議申立」が未だにゼロであること。
ある委員の方は、「それだけ開示に満足度が高いのでは」と話していた。
必ずしもそうとも限らないだろうとは思うが、元々、アーカイブズに移管された資料は開示されると思われがちなので、墨塗りになっている部分に不満を覚える人がいてもおかしくはないと思う。
よって、異議申立がゼロなのは、確かに満足度が高いと言える部分があるのかなと思う。(異議申立制度の周知度が低いという可能性も高いような気がするが。


資料3 行政文書の管理状況調査について

毎年行われていた「行政文書の管理状況調査」の最終年度版(来年からは公文書管理法に基づいた調査に変わる)。

表2の行政文書ファイルの媒体種別の内訳を見ると、未だに「紙」が96%で、「電子媒体」は3.8%に過ぎない。これは資料5で詳しく。

表3の移管文書の数を見ると、全体の1.2%まで上がってきている(これまでの3年は、0.7→0.7→1.0)。
もちろん何が移管されているかという質が問題ではあるのだが、数自体が上がってきているのは良いことだと思う。

最後の部分(9ページ)に、東日本大震災によって行政文書の管理状況の調査が困難な官署の一覧が記載されている。
東北地方の沿岸部にあった施設がほとんどであり、法務局の支局や税関支署、税務署や職安、運輸局、自衛隊基地などが挙げられている。
被害を受けたファイル数は26445件、すでにこのうち637件はファイル管理簿からすでに削除されているとのこと(流されて消失したもののようだ)。
ただし、まだ被害の全貌がわかっているわけではなく、被害ファイル数は今後増えるとのことである。


資料4  公文書等の管理に関する法律に基づく行政文書ファイル等の移管・廃棄等に関する手順について(概要)

移管・廃棄等の手順についてまとめたもの。特に解説無し。


資料5  公文書管理法施行に伴う一元化文書管理システム及び電子政府の総合窓口(e-Gov)の取組状況(1/3)(2/3)(3/3)

一元的文書管理システムの説明。
見ればそれなりにわかると思うので細かくは説明しないが、廃棄業務の省力化を意識した仕組みになっている。
廃棄リストの自動生成や、廃棄対象文書への内閣府からのアクセス権を認めて、チェックしやすくするなどの改良がなされている。

ただ、結局は「紙が96%の中で、どうやってこのシステムを運用するのか」という所が問題となる。
書誌情報は電子化されるが、結局その下にぶら下がっている文書そのものは紙ベースで管理される可能性が高い。
そうなれば、結局は内閣府に廃棄対象文書へのアクセス権を与えたとしても、その文書が電子化されていない以上、ものの役には立たない。

その点は委員からも突っ込まれていたが、総務省の側は「自分たちは電子政府の推進を目指しており、このシステムを「使ってほしい」と考えている」と言うだけであり、話を振られた内閣府も「自分たちも使ってくれると業務が楽になるのでありがたいが・・・」というような態度であり、ペーパーレス化を推進する司令塔がいないというのが浮き彫りになっていた。
これは、総務省と内閣府で役割が分かれている(法の運用は内閣府だが、システム構築が総務省)ことの弊害だが、何とかならんのかなあと見ていて歯がゆい感じだった。

また、総務省側は「画面操作eラーニング」や「簡易版マニュアル」を初めて作ったみたいなことを言っていて、「これまではシステムを作るだけで、使わせることにあまり意欲が無かったのか」と思わざるをえなかった。
公文書管理法は、これまでに何度も書いているが、制度を作ることだけではダメで、「運用」がどうなされるかが重要である。
システム一元化は、公文書管理法の運用においてかなり重要な位置を占めると考えているので、もう少し普及に力を入れてほしいなと思う。


資料6 電子公文書等の移管・保存・利用システムについて(1/3)(2/3)(3/3)

国立公文書館への電子文書(ボーンデジタル=作成時から電子文書)の移管手続きの説明である。
気になるのは、検索のための「メタデータ」(資料情報)の付け方ということになるが、一から付けるのではなく、文書情報は移管の際に移管元からきちんともらえているようである。
メタデータの充実化は、利用者にとってはありがたいので、力を入れてほしいと思う。


資料7  国立公文書館の東日本大震災への対応状況について

国立公文書館による東日本大震災への対応を解説したもの。
私はあまり詳しいことがわからないのだが、東京文書救援隊などと連携して動いているようである。
高山館長は、他の機関との横の連携をどう作るかが重要だとの話をされていた。
また、時間や場所によって、救出を求められる文書は異なる(現用の文書の救出、古文書の救出など)という話もされていた。

なお、「東日本大震災からの復興の基本方針」(2011年7月29日、東日本大震災復興本部)に、公文書保全のことが書かれており、これを推進するということにも触れられていた。
該当部分は、「5 復興施策」の「(4)大震災の教訓を踏まえた国づくり」の「⑥震災に関する学術調査、災害の記録と伝承」のところにある(27~28ページ)。

(ⅰ)今後の防災対策に資するため、今回の大震災に関し、国際共同研究を含め、詳細な調査研究を行う。その際、地震・津波の発生メカニズムの分析・解明やこれまでの防災対策の再検証やリスクコミュニケーションのあり方の検証等も行う。また、各機関の調査研究が有機的に連携し、総合的な調査となるよう配慮する。
(ⅱ)上記の調査研究の結果も踏まえつつ、地震・津波災害、原子力災害の記録・教訓の収集・保存・公開体制の整備を図る。その際、被災地域における公文書等の保全・保存を図るとともに、国内外で過去発生した地震・津波の教訓も共有する。情報通信技術を活用しつつ、これらの記録・教訓のみでなく、地域情報、書籍など関係する資料・映像等のデジタル化を促進する。また、今回の震災における消防機関等の活動記録を集積し、その分析・検証を行う。こうした記録等について、国内外を問わず、誰もがアクセス可能な一元的に保存・活用できる仕組みを構築し、広く国内外に情報を発信する。
 なお、津波の影響を受けた自然環境の現況調査と、経年変化状況のモニタリングを行う。


当日配られたのは、(ⅱ)の「公文書等の保全・保存」のところまでであり、特に「被災地域における公文書等の保全・保存」の部分に強調線が引かれていた。
もちろん、現在は被災地域の公文書等の保全・保存が重要なのは確かだが、将来的には国立公文書館の役割は「地震・津波災害、原子力災害の記録・教訓の収集・保存・公開体制の整備を図る」の部分に大きく関わってくるはずである。
その点にも力を注いでほしいと思う。

また余談ではあるが、原発事故が起こった際の政府の会議の議事録がほとんど作成されていないことも明らかになっており、公文書管理法の制度主旨そのものが揺らぐようなことが、すでに起きている(もちろん震災発生時は公文書管理法は施行前だが・・・)。
少なくとも今残っている公文書をしっかりと保存し、できる限り早く国立公文書館へ移管して公開をするべきである。

なぜならば、結局文書をいくら残しても、これを「分析・検証」しなければ、「教訓を共有」することにはならないのではないかと思うからである。
そのためには、政府だけでなく、民間からも分析が行えるように、基礎となる資料を公開することが必要となるだろう。(政府方針は「今後の防災対策に資する」ことを目的として掲げているが、それ以外にも様々な分析が行われる必要があるだろう。)
また、国や自治体は、民間からの分析を後押しするような金銭的な支援も行う必要があると思う。
そしてその成果を今後の生活に還元する手段も考える必要があるだろう。


会議の最後に、公文書管理課の方から、情報公開法の改正案は、次国会で審議をされる予定であるということ、著作権法の改正は、内閣府と文化庁との協議は済んでいるが、フェアユースの問題など文化庁側の関係で難航しており、まだ国会提出の目途は立っていないとの説明があった。

全体を通してみると、公文書管理法施行後に起こっている問題は、大震災のこともあって、まだよく見えないという感じである。
施行後1年で各機関から提出される報告を見ないと、問題点は浮き彫りにならないのではないかなと思う。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

祖母の思い出全史料協群馬大会感想 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。