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【連載】情報公開法改正案解説 第5回 第22条~第25条、第29、30条 [2011年公文書管理問題]

【連載】情報公開法改正案解説
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震災の影響で延期されていた情報公開法の改正案が4月22日に閣議決定され、国会に提出されました。
今国会でどこまで議論が進むかは未知数ですが、論点はきちんと提示しておいた方が良いかと思いますので、数回かけて法律案に沿って解説を行いたいと思います。

法律本文の青字にした部分が変更した部分。追加のケースと変更のケースがあります。
強調や下線は重要な部分を強調した部分です。

詳しくは、新旧対照表が一番見やすいと思います。

改正案全文は内閣官房のページ
http://www.cas.go.jp/jp/houan/index.html
から見れます。

第5回 第22条~第25条、第29、30条

(管轄及び移送の特例)
第二十二条 開示決定等又はこれに係る不服申立てに対する裁決若しくは決定に係る抗告訴訟(行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号)第三条第一項に規定する抗告訴訟をいう。第三十条において同じ。)(以下「情報公開訴訟」という。)は、同法第十二条第一項から第四項までに定める裁判所のほか、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所(次項において「特定地方裁判所」という。)にも、提起することができる。
2 前項の規定により特定地方裁判所に情報公開訴訟が提起された場合又は行政事件訴訟法第十二条第四項の規定により同項に規定する特定管轄裁判所に情報公開訴訟が提起された場合においては、同条第五項の規定にかかわらず、他の裁判所に同一又は同種若しくは類似の行政文書に係る情報公開訴訟が係属しているときは、当該特定地方裁判所又は当該特定管轄裁判所は、当事者の住所又は所在地、尋問を受けるべき証人の住所、争点又は証拠の共通性その他の事情を考慮して、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部について、当該他の裁判所又は同条第一項から第三項までに定める裁判所に移送することができる。


いままで情報公開訴訟は、高裁がある地方裁判所でしか行うことができなかった。
第1項は、これを各地方裁判所で起こせることに変更するというものである(他にも、係争中の不動産がある場所など、色々と選択肢がある)。

今までは、例えば鹿児島の人は訴訟を起こすために福岡まで行かなくてはならないなど、訴える側の経済的な負担が半端ではなかった。
今回これを各地裁でできるようにしたのは、情報公開法は「民主主義の基本インフラ」であるという原則を取ったということになる。
つまり、行政や司法側の都合で高裁所在地でやっていたものを、国民の側に合わせることにしたということになる。

しかし、似たような訴訟が複数ある場合は、それをまとめて行えた方が、コスト的に良いだろうということで、第2項の「移送」の手続きが引き続き定められた(旧第21条第1項から)。

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(釈明処分の特例)
第二十三条 情報公開訴訟においては、裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、必要があると認めるときは、当該情報公開訴訟に係る開示決定等をした行政機関の長に対し、当該情報公開訴訟に係る行政文書に記録されている情報の内容、第九条第三項の規定により記載しなければならないとされる事項その他の必要と認める事項を裁判所の指定する方法により分類又は整理した資料を作成し、及び提出するよう求める処分をすることができる。


これはいわゆる「ヴォーンインデックス提出命令」のことを言っている。
簡単に説明すると、裁判所が行政機関側に、不開示にしている理由を全て分類整理して、それぞれの不開示理由がわかるように解説した文書を提出させるというものである。
つまり、争点を明確化するための情報を、行政機関側に提出させるということである。
この提出されたものは、もちろん原告側にも提供され、それに基づいて裁判を進めることになる。

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(口頭弁論の期日外における行政文書の証拠調べ)
第二十四条 情報公開訴訟においては、裁判所は、事案の内容、審理の状況、前条に規定する資料の提出の有無、当該資料の記載内容その他の事情を考慮し、特に必要があると認めるときは、申立てにより、当事者の同意を得て、口頭弁論の期日外において、当事者を立ち会わせないで、当該情報公開訴訟に係る行政文書を目的とする文書(民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第二百三十一条に規定する物件を含む。)の証拠調べ又は検証(以下この条において「弁論期日外証拠調べ」という。)をすることができる。
2 前項の申立てがあったときは、被告は、当該行政文書を裁判所に提出し、又は提示することにより、国の防衛若しくは外交上の利益又は公共の安全と秩序の維持に重大な支障を及ぼす場合その他の国の重大な利益を害する場合を除き、同項の同意を拒むことができないものとする。
3 裁判所が弁論期日外証拠調べをする旨の決定をしたときは、被告は、当該行政文書を裁判所に提出し、又は提示しなければならない。この場合においては、何人も、その提出され、又は提示された行政文書の開示を求めることができない。
4 第一項の規定にかかわらず、裁判所は、相当と認めるときは、弁論期日外証拠調べの円滑な実施に必要な行為をさせるため、被告を弁論期日外証拠調べに立ち会わせることができる。
5 裁判所は、弁論期日外証拠調べが終わった後、必要があると認めるときは、被告に当該行政文書を再度提示させることができる。


これはいわゆる「インカメラ審理手続」のことを言っている。
これまで、情報公開訴訟では、裁判官がその係争中の文書の「不開示になっている部分」を見ることができなかった。
なぜならば、裁判が「双方審尋主義」(証拠は原告被告双方が見ることが可能でなければならない)で行われるという憲法第82条第1項に書かれている大原則があったからである。
つまり、裁判官が不開示部分を自分の目で見て判断したくても、それを判決に利用する場合は、見た内容について原告に解説する必要が出てきてしまうのだ。

「インカメラ審理」とは、この点をクリアするために編み出された方法であり、裁判官だけが訴訟の対象となる文書を見て「検証」することができる制度である。
第1項は、インカメラ審理を行う際には、被告も含めて誰も立ちあわないで行われる。
第3項は、インカメラ審理は、第2項の場合を除き拒否できない、また原告はその対象文書を見ることはできない。
第4項は、本来は被告も立ち会えないが、文書の保管元である被告がいた方が良いと裁判官が判断した場合は同席可能となる。
第5項は、裁判官は確認のために再度見ることができる。

「ヴォーンインデックス」と「インカメラ審理」はセットで考えた方がよい。
そもそも「インカメラ」を行うためには、「ヴォーンインデックス」で論点を整理する必要がある。

この2つは、情報公開訴訟が盛んであるアメリカで「発明」された制度である。
日本においては、この2つが無かったが故に、裁判官が対象となる文書を見れなかったため、被告側の行政機関の説明を鵜呑みにする傾向が強かった(というか鵜呑みにするしか仕方がなかった)。
原告側が「なぜその文書が不開示か」を立証できるわけがないからだ。

この制度の導入によって、やっと「まともな」情報公開訴訟が行われることになる。
何が問題になっているのかを裁判官がしっかりと把握した上で、不開示が合理的な理由で行われたのかが判断されることになる。
なお、憲法論的にも特に問題はないということは、検討チームの議論の中ですでにクリアされている。

ただし、第2項に、行政透明化検討チームの「とりまとめ」では入っていなかった条文が入った。
それは、防衛、外交、公安関係の情報の場合、インカメラ審理を拒否できるというものである。

これは検討チームでも大きな議論となっていた部分。
警察防衛外務からは、「裁判官の守秘義務」は本当に守られるのかや、「自分たちの専門的な説明を裁判官が理解できるのか」といったような強い懸念が示されていた。
つまり「自分たちの決定を裁判所が覆すことに対するおそれ」である。
だが、この点についても、チームの各委員が「司法でひっくり返ることを否定するわけではないですよね?」みたいな尋問がきちんとなされていたので、結局「とりまとめ」では例外を認めなかった。

しかし、内部では巻き返しが続いていたということだろう。
結局、ねじ込まれてしまった。

これはかなり問題のある条文である。
そもそもインカメラ審理は、情報公開・個人情報保護審査会では容認されており、守秘義務うんぬんで裁判所の関与を否定するのはおかしい。
また、第5条の「不開示」の部分で行政機関側の裁量権を認めてしまったため(第2回参照)、裁判でもインカメラを使えないと、実質的には防衛外交公安関係の情報の不開示は、他の機関のチェックをほぼ受けないまま残ってしまうことになる(答申に強制力のない審査会の審査がかろうじて残っているが・・・)。

確かに、防衛外交公安関係の情報がセンシティブなものであることは否定できない。
だからといって、各機関の判断がすべて「正しい」とは限らない。そこには、第三者のチェックが必要なはずだ。
インカメラ審理は、対象文書を裁判官以外は見ることができないわけだし、そもそも裁判官は行政をチェックする役割を担っているはずだ。

裁判所を外しに来たのは、明らかに自分たちの組織防衛のために他ならない。
司法のチェックを受けられる仕組みは、きちんと整備されるべきだと思う。

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第五章 情報提供
第二十五条 行政機関の長は、政令で定めるところにより、当該行政機関の保有する次に掲げる情報であって政令で定めるものを記録した文書、図画又は電磁的記録を適時に、国民に分かりやすい形で、かつ、国民が利用しやすい方法により提供するものとする。
  一 当該行政機関の組織及び業務に関する基礎的な情報
  二 当該行政機関の所掌に係る制度に関する基礎的な情報
  三 当該行政機関の所掌に係る経費及び収入の予算及び決算に関する情報
  四 当該行政機関の組織及び業務並びに当該行政機関の所掌に係る制度についての評価並びに当該行政機関の所掌に係る経費及び収入の決算の検査に関する情報
  五 当該行政機関の所管に係る次に掲げる法人に関する基礎的な情報
 イ 独立行政法人(独立行政法人通則法第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)その他の特別の法律により設立された法人のうち、政令で定めるもの
 ロ 当該行政機関の長が法律の規定に基づく試験、検査、検定、登録その他の行政上の事務について当該法律に基づきその全部又は一部を行わせる法人を指定した場合におけるその指定を受けた法人のうち、政令で定めるもの
 ハ イ又はロに掲げる法人に類するものとして政令で定める法人
2 行政機関の長は、同一の行政文書について二以上の者から開示請求があり、その全ての開示請求に対して当該行政文書の全部を開示する旨の決定をした場合であって、当該行政文書について更に他の者から開示請求があると見込まれるときは、当該行政文書を適時に、かつ、国民が利用しやすい方法により提供するよう努めるものとする。
3 前二項の規定によるもののほか、政府は、その保有する情報の公開の総合的な推進を図るため、行政機関の保有する情報の提供に関する施策の充実に努めるものとする。


この条文は、第3項を除き(旧第24条を改変したもの)、新たに作られたものである。

情報公開手続きというのは、申請する側も手間がかかるし、ましてや受け取る各行政機関側ではもっと手間がかかる。
だから、基本的な情報は自発的に行政機関側がもっと開示すれば、お互いに面倒が無くて済むよねということ。

第1項はその主な内容が列挙されている。

第2項は、複数回請求されるものは、需要が高いということなのだから、例えばウェブサイトで公開するとか、各情報公開窓口において手続き無しで閲覧させるようにするとかいったような、わざわざ決裁取ってどうのというような細かい手続きをせずに閲覧可能にすることを義務づけるということである。(すでに外務省が外交史料館で同じことを行っている。)

なお、一部でも不開示情報があった場合は、再審査を行う必要があるので、それは除外されている。
ただし、「提供してはならない」ということではないので、不開示情報を隠した上で提供するのは特に違反ではない。

第3項は、政府全体で情報公開を推進する政策を行いなさいということである。

いずれも、情報公開の利便性を高めるものであり、大いに歓迎するところだと思う。

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(地方公共団体の情報公開)
第二十九条 地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、情報公開条例(地方公共団体又は地方独立行政法人の保有する情報の公開を請求する住民等の権利について定める当該地方公共団体の条例をいう。次条において同じ。)の制定その他のその保有する情報の公開に関し必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めなければならない。

青字の部分が追加された。
早川和宏氏によると、2009年4月段階で、全国の自治体での情報公開条例制定率は99.7%だそうなので、現状を追認したということになるだろう。

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(情報公開訴訟に関する規定の準用)
第三十条 第二十三条及び第二十四条の規定は、情報公開条例の規定による開示決定等に相当する処分又はこれに係る不服申立てに対する裁決若しくは決定に係る抗告訴訟の手続について準用する。


新設された条文。
ヴォーンインデックスとインカメラを、地方自治体に対する情報公開訴訟でも使うことができるという規定である。
これにより、どの情報公開訴訟でも、この両者が使えることになる。
情報公開訴訟のあり方そのものが大きく変わるため、重要な改正だと言えよう。


行政機関情報公開法の改正については以上。
次回は附則および独法情報公開法についてと、まとめを書きます。
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