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【連載】法人文書と公文書管理法 第4回 国立大学法人における文書移管問題(後) [2010年公文書管理問題]

【連載】法人文書と公文書管理法
第1回 行政文書と法人文書の管理の違い
第1回補遺 内閣総理大臣と独法との関係
第2回 国立大学法人における文書移管問題(前)
第3回 国立大学法人における文書移管問題(中)

前回の続き。
前編では、公文書管理法施行によって、国立大学法人において、どのように文書管理が変わるのかという点について、主に保存期間満了後の措置を中心としながら説明をしてみた。
中編では、なぜ「国立公文書館等」は各大学に設置されないのかについて述べた。

最後の後編では、「国立公文書館等」になった国立大学法人の公文書館において、文書の移管の際にどのような問題が起きるのかということについて考えてみたい。

第4回 国立大学法人における文書移管問題(後)

まず、公文書管理法における「国立公文書館等」になるということによって、何が変わるのかを簡単に。

前回も軽く触れたが、「国立公文書館等」は、公文書管理法第15条から第27条までの条文を守ることを義務づけられている施行令第2条第1項第2号)。
これまで、独法の公文書館を縛る法律は存在していなかったので、自分たちの館の判断で規則を作ることができた。
しかし、今回の法律によって、この規則が統一化されることになる。

具体的な条文の解説は略するが、大きく変わるのは、不開示規定が明確化する(時の経過を踏まえても公開できない個人情報などを隠す)とか、開示が不十分だという不服があった場合には、公文書管理委員会に訴えることができるといったことなどであろう。
法文の逐条解釈をするのがこの記事の意図ではないので、詳しくは宇賀氏などの解説書を読んでいただければと思う。

今回の記事で考えてみたいのは、「公文書館に移管される際の手続き」のことである。

まず前提として、公文書管理法には次のような条文がある。

(特定歴史公文書等の保存等)
第十五条  国立公文書館等の長(国立公文書館等が行政機関の施設である場合にあってはその属する行政機関の長、国立公文書館等が独立行政法人等の施設である場合にあってはその施設を設置した独立行政法人等をいう。以下同じ。)は、特定歴史公文書等について、第二十五条の規定により廃棄されるに至る場合を除き、永久に保存しなければならない。


つまり、「国立公文書館等」に移管された文書は、すべて「永久」に保存しなければならない。
第25条にそれを廃棄できる条文があるが、内閣総理大臣の許可が必要なこと、また「特定歴史公文書等の保存、利用及び廃棄に関するガイドライン案」において、この条文は「当該特定歴史公文書等に記載されている情報の内容に基づいて廃棄の判断を行うことは許されず、「劣化が極限まで進展し」歴史資料として重要でなくなったと判断されるという外形的な要素のみがその理由として是認される」(37頁)とされているため、実質的には廃棄は難しいということになっている。

以上が前提。

中央行政機関と国立公文書館の間での「移管」手続きは、公文書管理法第5条第5項で決められた「レコードスケジュール」に基本的には基づいて行われる。
レコードスケジュールの説明については第1回で解説しているので省略。

ここで注目したいのは、国立公文書館の側に「評価選別」(文書を移管するか廃棄するかを決めること)の権利がないということである。
つまり、国立公文書館には、各行政機関が「移管」と決めた文書を拒否する権限が存在しない。

ただ、第9条第4項に「内閣総理大臣は、前項の場合において歴史公文書等の適切な移管を確保するために必要があると認めるときは、国立公文書館に、当該報告若しくは資料の提出を求めさせ、又は実地調査をさせることができる」という項目があり、あまりにも不要な文書ばかりを移管させようとした場合には、内閣総理大臣(実質的には内閣府公文書管理課)を通して、国立公文書館が「調査」をできる余地は残している。
「調査」という言葉が微妙なわけだが、少なくとも「それは移管しなくてもよいのでは?」という話し合いには喜んで応じるだろう。

また、廃棄についても、第8条第2項で内閣総理大臣の許可が必要ということになっているので、これも上記の第9条第4項を使えば、不適切な廃棄を止めることに国立公文書館が関与できる余地を残している。
どちらにしろ、内閣府が動かないとどうしようもないという現実はあるが。

問題は、これが法人文書になった場合。
第1回で述べたように、法人文書関係の条文からは、内閣総理大臣による介入に関する条文がすべて落ちている。
よって、上記のような、「内閣総理大臣→国立公文書館」という歯止めになる条文がすべて欠けているということになる。

一方、レコードスケジュールについては、第1回でも説明したが、独法でも導入は不可避ということになった(私は法的不備だと思うけど・・・)。

よって、法人文書が「国立公文書館等」に文書を移管される場合、各部局が規則に則って機械的に付けた「レコードスケジュール」に基づいて行われることになる。
つまり、独法の公文書館の側は、文書の評価選別が一切できないということになるのだ。
しかも、文書の廃棄に対する歯止めもないので、重要な文書が各部局の判断で勝手に処分される可能性も十分にありうるということになる。

こうなると、各部局が重要だと思う文書(=歴史的に重要な文書とは限らない)だけが移管され、歴史的に重要だけど各部局にとって不要と見なされたものは廃棄されてしまう。
つまり、公文書館に歴史的に重要な文書がきちんと回ってこない可能性が十分にあり得ることになる。

ここで、第1回の冒頭の某文書館の方の「評価選別機能を失う」という発言が関わってくる。
公文書管理法を上記のような読み方をすれば、これまで国立大学法人の公文書館で、自分たちの館の側で評価選別を行ってきた公文書館は、その権限を失うということになる。
つまり、実質的に、公文書管理法施行によって、現在よりも状況が「後退」する可能性が出てきたということになる。

また、前提として説明したように、「国立公文書館等」は、移管された文書を廃棄することが事実上できないことになっている。
よって、とりあえず移管を受け入れてから、選別して廃棄するということもできないということになる。

さて、なぜ上記のようなことが起きてしまったのか。
個人的に思うのは、「たぶんそういうことが起きると誰も気づいてなかった」というのが本当のところなのではと思う。

今回の公文書管理法が地方自治体に適用されなかった理由の一つとして、公文書管理法よりも先進的な取り組みを行っている自治体もあるからというものがある(宇賀氏、187頁、参考文献は下段に。以下同じ)。
だから、本来、この法律は、これまで先進的なことをやっていた公文書館の邪魔をすることは意識されていなかったはずである。

これまで、国立公文書館には、「内閣府と各行政機関が移管で同意した文書」(国立公文書館はあくまでも意見を言えるだけ)のみしか移管されてこなかった。
その状況を少しでも前進させようとして、移管に関係する条文は作られた。

そして、公文書管理法を作るときに、法人文書はほとんど注目されず、条文の検討をされることがなかった。
そのため、「国立公文書館等」と公文書館をまとめた概念がそのまま通ってしまった。
今から考えてみると、「国立公文書館等」と「独立行政法人公文書館等」とでも概念をきちんとわけておけば良かったのだ。

ただ、いまさら言ってもしょうがない。
では、現在の条文でも、国立大学法人の公文書館側に評価選別の権限を残すことが可能なのか。
私は可能だと考えている。

ここから先は、法学をちょっとかじった程度の人の「たわごと」と考えてくださって構わない。
ただそれでも書くのは、評価選別を公文書館側に持たせておきたいと考えている人に、何らかのヒントを提供できる可能性がありうるのではないかという考えからである。
なので、はじめから無理そうな解釈も含めて、自分の思考していった流れのままに書き残していきます。
おそらく、私よりも専門的な方が色々と考えておられるのだろうから、釈迦に説法のようなことかもしれないが。

まず、移管を決めている第11条第4項をもう一度確認してみる。

独立行政法人等は、保存期間が満了した法人文書ファイル等について、歴史公文書等に該当するものにあっては政令で定めるところにより国立公文書館等に移管し、それ以外のものにあっては廃棄しなければならない。

これによれば、移管廃棄を決めるのは「独立行政法人等」である。
国立大学法人においては、移管元も移管先の公文書館も「独立行政法人等」の同じ機関である。
つまり、移管する際の選別評価の権限を、規則で「公文書館に属する」と定めればよい。

これに対しては、移管を「国立公文書館」にも行えるという解釈も成り立つ以上、独法の公文書館を「主語」とするのは無理という意見もある。
ただ、私はそこまで厳密に読み込む条文なのかなというのが率直な感想。
この部分については、内閣府の逐条解説本でも明確に説明されておらず、おそらく条文解釈がきちんと定まっていない部分だと思う。そこは自分たちに都合の良い「読み」をしてしまっても大丈夫だと個人的には思っている。

なぜそんなことを言うのかというと、第1回やその補遺で述べたように、公文書管理法に基づく内閣総理大臣の独法への介入は事実上行えない。
また、行う場合は、事実上、法に「違反する」(そのおそれ)の場合にしか、主管大臣への勧告はできない。
つまり、言ってはなんだが「内閣府がおかしいと指摘しなければOK」というものなのである。
しかも、評価選別を「独法の公文書館で行う」ことが、果たしてこの法律に反しているとまで言えるだろうか。私はそこまで言えないと思う。

ただし、上記の考え方については、以前、早川和宏氏に「独立行政法人等において規則制定権を有しているのは、一般に長ですので、その意味では国の場合と同じ」と言われているので、「独立行政法人等」を「公文書館を主語」にして考えるのはさすがに無理かなとは思う。

また、もう一つの案としては、第25条を、劣化した文書以外も「廃棄」できるという「読み」を行うということである。
この第25条は、宇賀氏の解釈によれば「移管された行政文書ファイル等の中に歴史公文書等でないものが混在していることが判明した場合」(165頁)も想定されているとされる(ただし、上記のガイドラインや内閣府の解釈ではそれは入っていない(101頁))。
そのため、一度受け入れてから「廃棄」するということは可能とも取れる。

ただ、この条文における「廃棄」は、内閣総理大臣との協議(公文書管理委員会への諮問)が要件となっているので、例外的に廃棄する場合を念頭に置いていると考えることが自然ではある。
だが、力業ではあるが、評価選別を行って、廃棄リストを内閣府と公文書管理委員会に持って行くというのも、あり得ない選択肢ではないと思う。
もちろん繁雑な手続きがあって面倒なのは確かだが、5年後の公文書管理法改正のためにも一石投じるのはありだと思う。

ただ、中編で述べたように、「国立大学法人も役所」であるということを考えると、さすがに上記の二つは無理と考えるのが自然だと思われるので、別案も考えてみる。

まず、法人文書におけるレコードスケジュールの「作り方」についての条文が、公文書管理法には存在していない。
行政機関では、第5条第5項で「行政機関の長」がレコードスケジュールを作る義務を負っているが、独法では作成主体が存在していない。
また、第11条第2項では、「保存する期間を満了したときの措置」を管理簿に記載することは独立行政法人等の義務となっているが、その措置をどのように決めるかについては法的な縛りがない。
つまり、移管するか廃棄するかを決める「レコードスケジュール」に、独法の公文書館が何らかの介入を行うことは、「規則」さえあれば問題なくできる。例えば、文書作成時から公文書館が指導したとしても違法にはならない。

なお、第5条第5項には「できる限り早い時期」にレコードスケジュールを決めなければならないという規定があるが、法人文書には存在しない。
よって、移管廃棄を決める「直前」にレコードスケジュールを定める、ないしはレコードスケジュールを「変える」ことは可能である。
さらに、集中管理の推進という第6条第2項の条文に従い、「中間書庫」を設置して、そこに保存期間満了前の文書を運び込むことは問題なくできる。

つまり、「移管後」に廃棄ができないのならば、「移管前」に選別評価を行うことが可能な仕組みを、「規則」において作り上げてしまえばよいのである。
例えば、「集中管理のため、保存期間満了前に「中間書庫」に「移送」」と定め、その「中間書庫の管理」を公文書館が行うことにしておけばよい。
そして、例えばレコードスケジュールで「廃棄」となっているが、公文書館側がこれは必要として「移管」にしたい場合は、中間書庫において「移管」に変えられる仕組みを作っておけば良い。

また、「中間書庫」の設置が難しいのであれば、保存期間満了時の文書を、さしあたり公文書館に「移送」し、評価選別をした上で、最終的に残ったものを「移管」するという解釈もありうると思う。

こういった、法が定めていない「空白」の部分を、自分たちの解釈で「埋めて」しまうことは、当然違法ではない。

そして最も重要なのは、こういった手続きをきちんと「規則」に書き込み、「透明性」を確保することである。

公文書管理法の第1条には「説明責任」ということが明確に描かれている。
内部の部局間の移管となる国立大学法人内の手続きは、外部から見て透明性がなければならない。
それさえ確保できていれば、上記の解釈は十分に役所の世界でも通用すると思う。

法律というのは、なにも立法時の解釈が絶対なわけではない。
もし絶対ならば、世の法学者の9割は失業してるはずだ。

法律は作られたときに、すべての穴を埋めているわけではないのだ。
その穴はあとから解釈で埋めていくものである。
そして不備であれば改正するということもありうる。

少なくとも、公文書管理法における法人文書に関する条文は、色々と不備があらわになりつつある。
いまのところ、抜け道のようなやり方しか考えられないが、5年後の見直しで「改正」に結びつける努力も必要となるだろう。

なお、今回のこの「評価選別」問題は、現在それが行えている大学がどのような「規則」を作ってくるのかで、のちのちに非常に大きな影響を与えるだろう。
ここで、評価選別権を失うことになれば、今後「国立公文書館等」をつくろうとする国立大学法人の意欲を削ぐ可能性は十分にあり得る。
つまり、評価選別をすべて各部局に握られた場合、新しく「国立公文書館等」を作ったとしても、現在の国立公文書館がよく言われるように「決裁文書の山」しか結局は残らなくなるかもしれない。

理想的なモデルケースができれば、あとから続くところも非常にやりやすくなるだろう。
だからこそ、踏ん張ってほしい。心から願っている。

以上で、国立大学法人における移管問題については終了。
次回は、研究文書の問題について考えます。更新は年明けになるかと思います。→第5回

本年も、長い長い文章におつきあい下さいまして、ありがとうございました。

参考文献


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