【連載】法人文書と公文書管理法 第3回 国立大学法人における文書移管問題(中) [2010年公文書管理問題]
【連載】法人文書と公文書管理法
第1回 行政文書と法人文書の管理の違い
第1回補遺 内閣総理大臣と独法との関係
第2回 国立大学法人における文書移管問題(前)
前回の続き。
前編では、公文書管理法施行によって、国立大学法人において、どのように文書管理が変わるのかという点について、主に保存期間満了後の措置を中心としながら説明をしてみた。
その中で、「移管」先となる「国立公文書館等」が存在しないために重要文書の廃棄が起こる可能性について、色々と考察をしてみた。
中編では、なぜ「国立公文書館等」は各大学に設置されないのかという問題と、について考えたい。
第3回 国立大学法人における文書移管問題(中)
前編において、国立大学法人から国立公文書館への文書移管はおそらく不可能であるという話をした。
では、「各大学が公文書館を作れば良いではないか」という話に当然なる。
現在、「公文書館」らしきものを持っている国立大学法人は合計9校ある。
北海道、東北、東京、名古屋、金沢、京都、神戸、広島、九州(+大阪は準備中)
しかし、今回この中で、「国立公文書館等」に手を挙げたのは、東北、名古屋、京都、神戸、広島、九州の6校に過ぎない。
確かに、毎年継続的に法人文書の移管を行えていたのは、京都や広島などほんのわずかでしかない。
だが、曲がりなりに大学の法人文書を移管していた所でも、公文書管理法の「国立公文書館等」の指定を受けないところが出てきた。
前回説明したように、「国立公文書館等」に指定をされなければ、法人文書の移管を受けることができない。
つまり、この指定を受けなかった北大、東大、金沢大の公文書館は、今後、法人文書の新たな移管ができないことになる。
なぜ、このようなことがおきたのか。
これは、「国立公文書館等になるためのガイドラインがきつすぎる」という理由に他ならない。
この「ガイドライン」とは、「特定歴史公文書等の保存、利用及び廃棄に関するガイドライン案」のことである。
これは、国立公文書館等が利用規則を作成するためのガイドラインである。
いわゆる「特定歴史公文書等」(国立公文書館等で保管されている歴史文書)の扱い方に関する規則の「モデル」となる。
このガイドラインは、内容的にはかなり充実した内容になっている。
以前、4回にわたって内容を解説したことがあるので、そちらを参考にしてほしいのだが、公文書館として備える必要のある物理的な条件から文書管理のやり方まで、かなり細かい所まで書き込まれている。
そして、前回(第5回)の公文書管理委員会において出された、国立公文書館と外交史料館と宮内庁宮内公文書館の規則は、このガイドラインに沿った形で作られた。
ただし、このガイドラインは、公文書管理委員会の委員の石原一則氏(神奈川県立公文書館)が、「もしこれを私の職場で同じようにやれと言われたときに、どのような反応が出るか少し冷や汗を流しながら読んでおりました」(第3回議事録、11頁)と述べたように、相当にハードルの高いものであった。
私自身は、国立レベルの3館については、この基準で行うべきだと思って、基本的にはこのガイドラインに賛成していた。
そして、国立大学法人においては、公文書管理委員会での利用規則の承認が必要ないのだから、それを「参考」にして、できる範囲で整備すれば良いのではと思っていた。
なので、既存の国立大学法人の公文書館では、ハード面で同様の整備は無理でも、利用者への対応の部分などは十分対応可能だと思っていた。
しかし、予想以上に国立大学法人は「役所」であった。
「国立公文書館等」になるためには、前編で説明したように、「前号に掲げる施設[引用者注、国立公文書館]に類する機能を有するものとして政令で定めるもの」(第2条第3項第2号)でなければならない。
さらに、その政令(施行令)によれば、「独立行政法人等の施設であって、法第十五条から第二十七条までの規定による特定歴史公文書等の適切な管理を行うために必要な設備及び体制が整備されていることにより法第二条第三項第一号に掲げる施設に類する機能を有するものとして内閣総理大臣が指定したもの」(第2条第1項第2号)と定められた。
よって、国立公文書館に「類する機能」を持っていることが条件となり、「内閣総理大臣が指定」(つまり事実上、内閣府の許可)が必要だということになる。
つまり、この「法令」の文章を読むと、「国立公文書館」が従わなければならなかった「ガイドライン」に、他の国立公文書館「等」も事実上従わざるをえないと見えるのである。
これによって、いくつかの国立大学法人の公文書館はひるんだ。
だから、「こんなに厳しい規則は自分の所では無理」と判断したところは脱落していくことになった。
私にとっても、この反応は予想外のことであったし、自分の考え方が甘かったことに気づかされた。
また、私の所属大学のある職員の方から、公文書管理法への対応を聞かれたときにも、やはりこのガイドラインの「読み方」について聞かれた。
「このガイドラインに完全に従わないと「国立公文書館等」として認められないのか」と。
はっきり言って、いま、公文書館の無い大学に、いきなりハード面も含めた充実した公文書館を作れというのは、財政の厳しい状況の下では厳しい。
私の大学も、実際にそういう状況である。
私は、この「ガイドライン」がこんなにも国立大学法人にとって重荷になるとは、予想だにしていなかった。
これは、あくまでも国立3館をどうにかするためのものであり、独法は「参考」にして考えればよいのであって、必ずしもそれに完全に従う必要はないと思っていた。
だが、法令での「国立公文書館に類する機能」という規定、そして「内閣府の許可」という二つが、「役所」である国立大学法人には重くのしかかった。
また、内閣府も表だっては「ガイドラインに従わなくても良い」とは当然言えない。
よって、公文書管理法への対応のために公文書館を作った神戸大学以外は、新規の公文書館は作られなかったのである。それどころか、既存館すら脱落する状況になってしまった。
私としては、もちろん、本来ならば、きちんとした公文書館が各国立大学法人に作られてほしいと思う。
ただ、今のままでは、「ガイドラインがきついから公文書館ができない→重要文書の廃棄」という、本末転倒な状況になってしまう。
この状況の突破策をどうすればよいのだろうか。
思いつくこととしては、「国立公文書館等」への指定を許可するのは内閣府なのだから、ハード面(施設)にある程度不備があっても、「体制」が整備されていれば柔軟に指定を出すというのがあるだろう。
さきほど引用した施行令によれば、「法第十五条から第二十七条」に適合した施設と体制が整備されていれば良いのだから、「施設」は「集中管理倉庫」があれば良い、「体制」は公文書管理部局が総務課とは別に組織されていて、目録作成と閲覧業務を最低限行える状況になっていれば良いというぐらいにハードルを下げるというのは、法令の読み方としてギリギリありではないかと思う。
なお、この国立大学法人が直面している問題は、全史料協大会でも話題になっていた、自治体の公文書管理問題と完全にリンクしている。
つまり、「館」を財政的に作ることができない自治体において、重要な歴史的公文書を残すためにはどうすれば良いのかということである。
そのためには、ハードはさしあたり置いといて、まずは「機能(体制)」をどうにかする。
全史料協の早川・冨永報告での公文書館機能の「ミニマムモデル」を最低限整備しようということである。→参考記事
そして、内閣府はその最低限の「機能」を整備した大学には、「国立公文書館等」の指定をしてほしいと思う。
おそらく、ここまでハードルを下げないと、国立大学法人において歴史的に重要な公文書は残らない。
もちろん、理想は「館」として整備されること。
だが、第一歩として、最低限の公文書館機能を持つ部局を設置して体制を作り、そこから場合によっては「館」も整備するという二段ロケットのようにしなければ、おそらく何も変わらない。
それが国立大学法人の現実だろう。
内閣府は1月以降、独法に対する説明会を開催すると聞く。
何とか、「現実的な対応」をしてくれることを願ってやまない。
長くなったので残りは後編にて。
「国立公文書館等」が設置される大学において、この法律はどのような影響を与えるのかについて書く予定です。
※長めの追記
なお、上記のような文章の書き方をしているが、「館」は必要だという立場に私は立つ。
なぜならば、大学の歴史を守るためには、公文書だけを保存すればよいという話ではないからだ。
例えば、学長や事務のトップなどの私有文書や、学生生活を記録した写真や学生団体の資料なども、本来は集めないと歴史は守ることはできない。
つまり、「公文書館」だけではだめで、「アーカイブズ」と呼べるような記憶装置が必要だからである(公文書館もアーカイブズの一種だが、定義が狭い)。
だから、本来ならば、二段ロケットではなく、「公文書館」からさらに「アーカイブズ」へと広げていく三段ロケットが必要なのかもしれない。
ちなみに、私は、自分の所属している一橋大学の某研究会で、一橋が「国立公文書館等」をすぐに作れないのであれば、次のようなことを考えたらどうかという話をした。
①アーカイブズを作るための前提としての悉皆調査→各事務室にどれだけの文書が存在しているのかを把握すること。ファイル管理簿上の書類がきちんと残っているかの点検作業。
②徹底的な研修の実施→重要文書の作成、保存の必要性を訴える=アーカイブズへの理解者を増やす。教員に対しても行うべき(学内行政に関係しているのであれば)。
③優先的に「集中管理システム」の導入を図ること。そのための受入部署を用意すること(「倉庫」を作ればよいという話ではない。目録整理、評価選別を行うための人員が必要)。
―各事務室に分散管理されている状況の改善―作成30年(あるいは10年)以上経過した文書を全て集中管理書庫に移すこと。さしあたりは国立の時計台塔など、事務から近く、それなりのセキュリティーが働く所に置く。集中管理書庫は「公文書館」ではないので、アーカイブズを作るまでは「延長」措置でカバーする(歴史公文書のガイドラインにおける「公文書館」になるには、ただ組織をいじれば済むという次元では済まないので)。
=情報管理との関わりでも早急に取り組むべき課題。また遅れれば各部署が重要文書を廃棄する―「歴史的に重要な文書」=「現場にとって重要な文書」とは限らない。5年10年で捨てられる文書の方が重要なこともあり得る。
④大学創立150周年に向けての資料収集のための編集委員会(教員を中心)を設立し、学内外からの大学史資料の収拾を図る。
⑤集中管理書庫をアーカイブズに発展させるための説得工作を150周年編集委員会に担わせる。総務と教員の連携で大学当局を説得する。予算は如水会・一橋大学基金(キャンパス整備基金)にも支援を要請する。
⑥アーカイブズをできれば時計台塔に作る。書庫は小平でも構わないが、大学本部や図書館の近くにあること、OBOGなども立ち寄りやすい場所にあることは、施設の理解度を増すためにも必須。
悉皆調査は、公文書管理法を制定する過程の中で、上川陽子公文書管理担当大臣(当時)が行った各省庁調査をイメージしたもの。
国立大学法人は、各学部ごとの独立性が高いので(キャンパスが離れていれば特に)、学部事務室で文書管理が完結しているケースが高いと思われる。
よって、まずは実態を把握することが必要。
さらに、集中管理システムの導入は、統一的な文書管理を行うためにも必要。
また、集中管理の推進は、公文書管理法第6条第2項に「努めなければならない」と書いているので、法的な裏付けもある。
おそらくこの二つを推進するだけでも、かなりの作業量を伴うだろう。
だが、そもそも歴史的に重要な文書を残すか否かという以前に、適切な公文書管理を推進するためにもこの二つは絶対に必要なことだと思う。
これが解決策になるかはわからない。現実的に厳しいのかもしれない。
でも、この二つをするだけでも、重要文書の廃棄はかなりの部分、食い止めることができるのではないかと思う。
もちろん、集中管理を担当する部局に、それに気づいている人がいるかにもよるけれども・・・
→後編へ
第1回 行政文書と法人文書の管理の違い
第1回補遺 内閣総理大臣と独法との関係
第2回 国立大学法人における文書移管問題(前)
前回の続き。
前編では、公文書管理法施行によって、国立大学法人において、どのように文書管理が変わるのかという点について、主に保存期間満了後の措置を中心としながら説明をしてみた。
その中で、「移管」先となる「国立公文書館等」が存在しないために重要文書の廃棄が起こる可能性について、色々と考察をしてみた。
中編では、なぜ「国立公文書館等」は各大学に設置されないのかという問題と、について考えたい。
第3回 国立大学法人における文書移管問題(中)
前編において、国立大学法人から国立公文書館への文書移管はおそらく不可能であるという話をした。
では、「各大学が公文書館を作れば良いではないか」という話に当然なる。
現在、「公文書館」らしきものを持っている国立大学法人は合計9校ある。
北海道、東北、東京、名古屋、金沢、京都、神戸、広島、九州(+大阪は準備中)
しかし、今回この中で、「国立公文書館等」に手を挙げたのは、東北、名古屋、京都、神戸、広島、九州の6校に過ぎない。
確かに、毎年継続的に法人文書の移管を行えていたのは、京都や広島などほんのわずかでしかない。
だが、曲がりなりに大学の法人文書を移管していた所でも、公文書管理法の「国立公文書館等」の指定を受けないところが出てきた。
前回説明したように、「国立公文書館等」に指定をされなければ、法人文書の移管を受けることができない。
つまり、この指定を受けなかった北大、東大、金沢大の公文書館は、今後、法人文書の新たな移管ができないことになる。
なぜ、このようなことがおきたのか。
これは、「国立公文書館等になるためのガイドラインがきつすぎる」という理由に他ならない。
この「ガイドライン」とは、「特定歴史公文書等の保存、利用及び廃棄に関するガイドライン案」のことである。
これは、国立公文書館等が利用規則を作成するためのガイドラインである。
いわゆる「特定歴史公文書等」(国立公文書館等で保管されている歴史文書)の扱い方に関する規則の「モデル」となる。
このガイドラインは、内容的にはかなり充実した内容になっている。
以前、4回にわたって内容を解説したことがあるので、そちらを参考にしてほしいのだが、公文書館として備える必要のある物理的な条件から文書管理のやり方まで、かなり細かい所まで書き込まれている。
そして、前回(第5回)の公文書管理委員会において出された、国立公文書館と外交史料館と宮内庁宮内公文書館の規則は、このガイドラインに沿った形で作られた。
ただし、このガイドラインは、公文書管理委員会の委員の石原一則氏(神奈川県立公文書館)が、「もしこれを私の職場で同じようにやれと言われたときに、どのような反応が出るか少し冷や汗を流しながら読んでおりました」(第3回議事録、11頁)と述べたように、相当にハードルの高いものであった。
私自身は、国立レベルの3館については、この基準で行うべきだと思って、基本的にはこのガイドラインに賛成していた。
そして、国立大学法人においては、公文書管理委員会での利用規則の承認が必要ないのだから、それを「参考」にして、できる範囲で整備すれば良いのではと思っていた。
なので、既存の国立大学法人の公文書館では、ハード面で同様の整備は無理でも、利用者への対応の部分などは十分対応可能だと思っていた。
しかし、予想以上に国立大学法人は「役所」であった。
「国立公文書館等」になるためには、前編で説明したように、「前号に掲げる施設[引用者注、国立公文書館]に類する機能を有するものとして政令で定めるもの」(第2条第3項第2号)でなければならない。
さらに、その政令(施行令)によれば、「独立行政法人等の施設であって、法第十五条から第二十七条までの規定による特定歴史公文書等の適切な管理を行うために必要な設備及び体制が整備されていることにより法第二条第三項第一号に掲げる施設に類する機能を有するものとして内閣総理大臣が指定したもの」(第2条第1項第2号)と定められた。
よって、国立公文書館に「類する機能」を持っていることが条件となり、「内閣総理大臣が指定」(つまり事実上、内閣府の許可)が必要だということになる。
つまり、この「法令」の文章を読むと、「国立公文書館」が従わなければならなかった「ガイドライン」に、他の国立公文書館「等」も事実上従わざるをえないと見えるのである。
これによって、いくつかの国立大学法人の公文書館はひるんだ。
だから、「こんなに厳しい規則は自分の所では無理」と判断したところは脱落していくことになった。
私にとっても、この反応は予想外のことであったし、自分の考え方が甘かったことに気づかされた。
また、私の所属大学のある職員の方から、公文書管理法への対応を聞かれたときにも、やはりこのガイドラインの「読み方」について聞かれた。
「このガイドラインに完全に従わないと「国立公文書館等」として認められないのか」と。
はっきり言って、いま、公文書館の無い大学に、いきなりハード面も含めた充実した公文書館を作れというのは、財政の厳しい状況の下では厳しい。
私の大学も、実際にそういう状況である。
私は、この「ガイドライン」がこんなにも国立大学法人にとって重荷になるとは、予想だにしていなかった。
これは、あくまでも国立3館をどうにかするためのものであり、独法は「参考」にして考えればよいのであって、必ずしもそれに完全に従う必要はないと思っていた。
だが、法令での「国立公文書館に類する機能」という規定、そして「内閣府の許可」という二つが、「役所」である国立大学法人には重くのしかかった。
また、内閣府も表だっては「ガイドラインに従わなくても良い」とは当然言えない。
よって、公文書管理法への対応のために公文書館を作った神戸大学以外は、新規の公文書館は作られなかったのである。それどころか、既存館すら脱落する状況になってしまった。
私としては、もちろん、本来ならば、きちんとした公文書館が各国立大学法人に作られてほしいと思う。
ただ、今のままでは、「ガイドラインがきついから公文書館ができない→重要文書の廃棄」という、本末転倒な状況になってしまう。
この状況の突破策をどうすればよいのだろうか。
思いつくこととしては、「国立公文書館等」への指定を許可するのは内閣府なのだから、ハード面(施設)にある程度不備があっても、「体制」が整備されていれば柔軟に指定を出すというのがあるだろう。
さきほど引用した施行令によれば、「法第十五条から第二十七条」に適合した施設と体制が整備されていれば良いのだから、「施設」は「集中管理倉庫」があれば良い、「体制」は公文書管理部局が総務課とは別に組織されていて、目録作成と閲覧業務を最低限行える状況になっていれば良いというぐらいにハードルを下げるというのは、法令の読み方としてギリギリありではないかと思う。
なお、この国立大学法人が直面している問題は、全史料協大会でも話題になっていた、自治体の公文書管理問題と完全にリンクしている。
つまり、「館」を財政的に作ることができない自治体において、重要な歴史的公文書を残すためにはどうすれば良いのかということである。
そのためには、ハードはさしあたり置いといて、まずは「機能(体制)」をどうにかする。
全史料協の早川・冨永報告での公文書館機能の「ミニマムモデル」を最低限整備しようということである。→参考記事
そして、内閣府はその最低限の「機能」を整備した大学には、「国立公文書館等」の指定をしてほしいと思う。
おそらく、ここまでハードルを下げないと、国立大学法人において歴史的に重要な公文書は残らない。
もちろん、理想は「館」として整備されること。
だが、第一歩として、最低限の公文書館機能を持つ部局を設置して体制を作り、そこから場合によっては「館」も整備するという二段ロケットのようにしなければ、おそらく何も変わらない。
それが国立大学法人の現実だろう。
内閣府は1月以降、独法に対する説明会を開催すると聞く。
何とか、「現実的な対応」をしてくれることを願ってやまない。
長くなったので残りは後編にて。
「国立公文書館等」が設置される大学において、この法律はどのような影響を与えるのかについて書く予定です。
※長めの追記
なお、上記のような文章の書き方をしているが、「館」は必要だという立場に私は立つ。
なぜならば、大学の歴史を守るためには、公文書だけを保存すればよいという話ではないからだ。
例えば、学長や事務のトップなどの私有文書や、学生生活を記録した写真や学生団体の資料なども、本来は集めないと歴史は守ることはできない。
つまり、「公文書館」だけではだめで、「アーカイブズ」と呼べるような記憶装置が必要だからである(公文書館もアーカイブズの一種だが、定義が狭い)。
だから、本来ならば、二段ロケットではなく、「公文書館」からさらに「アーカイブズ」へと広げていく三段ロケットが必要なのかもしれない。
ちなみに、私は、自分の所属している一橋大学の某研究会で、一橋が「国立公文書館等」をすぐに作れないのであれば、次のようなことを考えたらどうかという話をした。
①アーカイブズを作るための前提としての悉皆調査→各事務室にどれだけの文書が存在しているのかを把握すること。ファイル管理簿上の書類がきちんと残っているかの点検作業。
②徹底的な研修の実施→重要文書の作成、保存の必要性を訴える=アーカイブズへの理解者を増やす。教員に対しても行うべき(学内行政に関係しているのであれば)。
③優先的に「集中管理システム」の導入を図ること。そのための受入部署を用意すること(「倉庫」を作ればよいという話ではない。目録整理、評価選別を行うための人員が必要)。
―各事務室に分散管理されている状況の改善―作成30年(あるいは10年)以上経過した文書を全て集中管理書庫に移すこと。さしあたりは国立の時計台塔など、事務から近く、それなりのセキュリティーが働く所に置く。集中管理書庫は「公文書館」ではないので、アーカイブズを作るまでは「延長」措置でカバーする(歴史公文書のガイドラインにおける「公文書館」になるには、ただ組織をいじれば済むという次元では済まないので)。
=情報管理との関わりでも早急に取り組むべき課題。また遅れれば各部署が重要文書を廃棄する―「歴史的に重要な文書」=「現場にとって重要な文書」とは限らない。5年10年で捨てられる文書の方が重要なこともあり得る。
④大学創立150周年に向けての資料収集のための編集委員会(教員を中心)を設立し、学内外からの大学史資料の収拾を図る。
⑤集中管理書庫をアーカイブズに発展させるための説得工作を150周年編集委員会に担わせる。総務と教員の連携で大学当局を説得する。予算は如水会・一橋大学基金(キャンパス整備基金)にも支援を要請する。
⑥アーカイブズをできれば時計台塔に作る。書庫は小平でも構わないが、大学本部や図書館の近くにあること、OBOGなども立ち寄りやすい場所にあることは、施設の理解度を増すためにも必須。
悉皆調査は、公文書管理法を制定する過程の中で、上川陽子公文書管理担当大臣(当時)が行った各省庁調査をイメージしたもの。
国立大学法人は、各学部ごとの独立性が高いので(キャンパスが離れていれば特に)、学部事務室で文書管理が完結しているケースが高いと思われる。
よって、まずは実態を把握することが必要。
さらに、集中管理システムの導入は、統一的な文書管理を行うためにも必要。
また、集中管理の推進は、公文書管理法第6条第2項に「努めなければならない」と書いているので、法的な裏付けもある。
おそらくこの二つを推進するだけでも、かなりの作業量を伴うだろう。
だが、そもそも歴史的に重要な文書を残すか否かという以前に、適切な公文書管理を推進するためにもこの二つは絶対に必要なことだと思う。
これが解決策になるかはわからない。現実的に厳しいのかもしれない。
でも、この二つをするだけでも、重要文書の廃棄はかなりの部分、食い止めることができるのではないかと思う。
もちろん、集中管理を担当する部局に、それに気づいている人がいるかにもよるけれども・・・
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