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【連載】法人文書と公文書管理法 第2回 国立大学法人における文書移管問題(前) [2010年公文書管理問題]

【連載】法人文書と公文書管理法
第1回 行政文書と法人文書の管理の違い
第1回補遺 内閣総理大臣と独法との関係

今回は、法人文書と公文書管理法の第2回。
国立大学法人において、公文書管理法はどのように適用され、どのような問題がおきうるのかについて考えてみます。
しつこいようですが、あくまでも私の「私見」です。その点は読む際に頭に置いてください。

第2回 国立大学法人における文書移管問題(前)

前回では、法人文書の条文の読み方について解説を行った。
これを国立大学法人にあてはめて見た場合、どうなるかというのが今回の話である。
なお、国立大学法人と区切っているが、これはたまたま私がその近くにいるので例として挙げているだけであって、実際には他の独立行政法人(独法)にもあてはまることになるだろう。

まず、前提から。
公文書管理法は、中央の行政機関だけでなく、独立行政法人にも適用される。
具体的には、情報公開法の適用を受けている機関と同じことになると思われるので、次のページの下部に記載されている機関が全て対象となるだろう。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/gyoukan/kanri/jyohokokai/gaiyo.html

次に、これまでの情報公開法下での文書管理と、公文書管理法下での違いから考えてみよう。
前回と同じ順番で簡単にまとめてみる(前回と合わせて読んでください)。
規定が細かくなったぐらいで済むものには、特に細かい解説はしていませんので、条文を見比べてください。

・作成(第4条)
○行政機関情報公開法施行令(*)第16条第1項第2号の規定よりも要件がきつくなり、意思決定過程までも文書を作成しなければならなくなった。

(*)独法情報公開法第23号第2項に基づき、行政機関情報公開法施行令第16条を参酌する。施行令第16条とは、情報公開法上における文書管理を定めた部分。
以後、この第16条第1項第○号はたくさん出てくるので「行施行令16-1-○」で省略。

・整理(第5条)
文書保存期間の延長は、これまでは内部の処理だけで可能であったが(行施行令16-1-7)、内閣総理大臣への「報告義務」を課されることになった。
○レコードスケジュールについては、第1回を参照。

・保存(第6条)
○これも以前(行施行令16-1-3)と比べものにならないほど規定が細かくなった。
「集中管理の推進」が第2項に入っているのが注目。これは今までなかった規定。

・法人文書ファイル管理簿(第11条第2項、第3項)
○法人文書ファイル管理簿については以前から作成義務があった(行施行令16-1-10)が、内容がさらに細かくなった。
○インターネット上への公表は事実上行われているのを追認して義務化。

・移管・廃棄(第11条第4項、第5項)
○移管については長いので後述(※)。
○廃棄については以前(行施行令16-1-8)と同様に自分たちの機関の判断のみで可能。
なお、行施行令でも、移管するもの以外は「廃棄すること」とあるので、保存年限が来たら延長されたものを除き、基本的には廃棄されていることに注意。
○意見書の付与については新設。

・管理状況報告(第12条)
○これまでは情報公開法に関する報告義務はあった(独法情報公開法第25条)。公文書管理については新設。

・管理規則(第13条)
○これまでは定めることは義務だった(独法情報公開法第23条第2項)。内容が公文書管理法に基づいたものに変わることになる。

以上だが、基本的には、これまで情報公開法施行令で決まっていた条項が、細かく法律で規定されることになったと考えてよいと思われる。

ただし、根本的に大きく変わったものがある。
それは、法人文書の保存期間満了時の処置の仕方である。

それでは、後述することにしておいた「移管」の話を切り口に詳述してみる。

※「移管」について
○移管については、以前は2つの移管先があった(行施行令16-1-8)。

□国立公文書館
□行施行令第2条第1項(同内容は独法情報公開法施行令第1条)に規定された機関


前者は、国立公文書館が、国立公文書館法の規定によって「国の機関」の文書しか受入できなかったため、独法の文書は移管できなかった。
後者は、独法情報公開法施行令第1条によれば、次の機関。

(法第二条第二項第二号の政令で定める施設)
第一条  独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律 (以下「法」という。)第二条第二項第二号 の政令で定める施設は、次に掲げる施設とする。
一  独立行政法人国立公文書館が設置する公文書館
二  独立行政法人国立文化財機構が設置する博物館
三  独立行政法人国立科学博物館が設置する博物館
四  独立行政法人国立美術館が設置する美術館
五  前各号に掲げるもののほか、博物館、美術館、図書館その他これらに類する施設であって、保有する歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料について次条の規定による適切な管理を行うものとして総務大臣が指定したもの


この第5号の規定によって、例えば、日本銀行アーカイブズ、国立大学法人京都大学や広島大学の文書館のような、独法が独自に作った公文書館に法人文書の移管を行うことができた。

今回の公文書管理法では、この移管先が「国立公文書館等」と規定された(第11条第4項)。
この「国立公文書館等」の定義を見てみると

第2条
3  この法律において「国立公文書館等」とは、次に掲げる施設をいう。
一  独立行政法人国立公文書館(以下「国立公文書館」という。)の設置する公文書館
二  行政機関の施設及び独立行政法人等の施設であって、前号に掲げる施設に類する機能を有するものとして政令で定めるもの


これによって、国立公文書館への移管が可能となった(国立公文書館法も改正)。
また、独法の公文書館はこの第2号の規定が適用されることになった。

しかし、一方、法人文書の定義の所には次のような規定がある。

第2条
5  この法律において「法人文書」とは、独立行政法人等の役員又は職員が職務上作成し、又は取得した文書であって、当該独立行政法人等の役員又は職員が組織的に用いるものとして、当該独立行政法人等が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
一、二、四略
三  政令で定める博物館その他の施設において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの(前号に掲げるものを除く。)


お気づきになるだろうか。
独法情報公開法施行令第1条に規定されていた「施設」が、公文書管理法では2つに分割され、法人文書を受け入れる公文書館は「国立公文書館等」に、それ以外の施設は「博物館その他の施設」となることになったのである。

これによって何が起きるか。
これまで、法人文書の移管は、博物館や美術館、図書館でも、総務大臣の指定を受けさえすれば可能だったが、公文書管理法では「国立公文書館等」と認定された施設以外には移管が不可能になったということである。

これは、もちろん、公文書をきちんとした専門施設で保管し公開しようという意欲を示した条項であり、本来ならば歓迎すべき条項である。
だが、色々と実態を見てみると、この分離したことがマイナスに働く可能性もでてきた。これについては次回にて。

さて、この結果、法人文書の保存期間満了時の措置は、これまでは

□移管→できない。ただし独法が独自に持っていた施設には可能。
□延長→内部の手続きで可能
□廃棄→内部の手続きで可能


であったのが

□移管→「国立公文書館等」へ
□延長→内閣総理大臣への報告義務
□廃棄→内部の手続きで可能


となった。

「移管」が、独法のどの機関であってもできるようになったのは大きな前進だが、「国立公文書館等」が「無い」場合には移管ができないということでもある。

さて、「無い」ってどうして?と思う方もおられるだろう。
国立公文書館はあるのだから、「無い」というのはおかしいだろうと。
だが、もし国立公文書館が「移管を受けたくない」と言い出したらどうなるだろうか。

そして、国立大学法人の法人文書では、実際にそのような事態になっている。
もちろん、国立公文書館は公式的に「受け入れない」とは言ってない。
国立公文書館に拒否権は無いからだ。

だが、さまざまな集まりで、国立公文書館の館長や理事が「国立大学法人は独自によろしく」といったような発言をくりかえしている。
私も、ある講演会で、某国立大学法人の関係者が「国立公文書館は国立大学法人の文書を受け入れるのか」といった質問をしたときに、「頑張ってください」という答え方をされていたのを聞いたことがある。
なので、おそらく国立公文書館は国立大学法人の文書を「受け入れない」。

一方、国立公文書館がそう言いたい理由もわからなくはない。
歴史学においては「資料の現地保存の法則」というのがある。
歴史資料はその「地域の歴史」なのだから、基本的にはその地域で保存されるべきものであり、中央が収奪してくるのは問題だという考え方である。
これは、植民地から資料を奪ってきた反省の中から生まれてきた概念でもある。

だから、例えば東京にある大学ならまだしも、各地域にある国立大学法人の文書は、基本的に地元で何とかするべきだというのはわからない発想ではないのだ。
もちろん、国立公文書館の本音は「大量に持ってこられてもスペースも限られているから困る」といったところかもしれないが。

よって、独自に公文書館を持たない国立大学法人では、「移管先がない」という事態がここで起きうることになった。
そうなると、進むべき道は「延長」か「廃棄」かということになる。

ただ、これまで、「延長」は内部の論理で簡単にできた。
だが、これからは内閣総理大臣への「報告」が義務となる。
つまり「面倒くさく」なるのだ。

そこで、第1回の冒頭で紹介した某大学文書館員の方の発言の前半部の話になる。
つまり、移管先の文書館を独自に持たない国立大学法人では、情報公開法施行直前に起こったような大量廃棄がまた起きるのではないかと。

しかし、情報公開法施行直前と異なるのは、国立大学法人では、情報公開法ができてからずっと、大量の文書が「延長」もされずに「廃棄」されてきたということである。

上記の「移管・廃棄」の項で触れたが、移管も延長もされなかった文書は「廃棄」されることになっている。
別に、公文書管理法ができたから「廃棄」が起こるわけではない。

身内の恥をさらすのでやや躊躇はあるのだが、表4は私の所属する一橋大学の重要な政策決定機関における「議事録」と「附属資料」の残存状況を調査した記録である。
特に下部に記載の各学部教授会の資料の残り方に注目してほしい。

おそらく教授会の議事録は、ほとんどの学部で情報公開法施行時までは持っていたのではないかと思われる。
だが、情報公開法によって、文書の「永年保存」規定が無くなった(最長30年保存)ことで、こういった議事録なども「廃棄」の対象になっていった。
たまたま、内部で捨てたらまずいと気づいた人がいた場合に、捨てられずに済んだものもあったようだが、附属資料については、今でも年限が来たら粛々と捨てている学部も多い。

つまり、すでに、重要な文書の「廃棄」は行われてきた。
国立大学法人では、国立だった時に行政機関情報公開法の適用を受けている。
だから、2000年にすでに1回大量廃棄は起きており、その後も、独自の文書館を持たない大学は、重要な資料を捨て続けているのが現状だろう。

ただ、これまでは心ある人が何とか「延長」という措置を取って、内部で文書を抱えることで保存してきた。
しかし、「延長」の手続きが面倒になることで、これまで何とか残っていたものまでもが「廃棄」にまわる可能性は十分に考えられる
その意味では、公文書管理法施行後に大量廃棄が起きる可能性はありうるということになる。

いま、かろうじて延長で残っている文書は、おそらく「重要な記録」であることは疑いない。
これらをどう守っていくことができるのか。残された時間は必ずしも長いわけではない。

自分の大学に公文書館のない国立大学法人に所属している方は、一度事務室に行って「公文書管理法への対応はどうなっているのか」尋ねてみると良いと思う。
少なくとも重要文書だけでも「延長」措置が取られるようにしなければ、その大学の歴史を遡ることはできなくなるだろう。
もし重要な文書の廃棄が続けば、その大学の在校生や卒業生にとっても大きな損失を抱えることになる。

すでに相当に長くなったので、中編に続く。
中編では、ではなぜ「国立公文書館等」は各大学に設置されないのかという問題について考えたい。
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