【連載】法人文書と公文書管理法 第1回 行政文書と法人文書の管理の違い [2010年公文書管理問題]
公文書管理法の施行を来年の4月に控え、文書管理規則などが整備されつつあります。
その中で、先日の全史料協の大会で、ある国立大学法人の文書館員の方が次のような発言をされました。
公文書管理法はバラ色の法律ではない。国立大学法人で文書移管を行うことのできる「国立公文書館等」に立候補したのは6校に過ぎない。このままでは、全国の国立大学法人では来年以降大量の文書廃棄がおきるおそれがある。
また、自分の大学の文書館は、これまで自分たちが主導となって文書の評価選別(廃棄か移管か)を決めていたが、今回の法律によって、評価選別の機能を失ってしまう。これはゆゆしき問題だ。
この話を聞いたときに、これまで何となく違和感があったものが、頭の中で結びつきました。
10月から11月にかけて、私は母校の小さな研究会で、国立大学法人の文書管理が公文書管理法によってどう変わるのかについて講演依頼を受けて、そのことについて話をする機会がありました。
その時に、色々と調べていく中で、「何かおかしい?」と思うようなことにいくつもぶつかってきました。
だが、その違和感をどうも上手くまとめることができませんでした。
その後、法人文書について勉強し直しました。
その過程で、当の文書館員の方や、公文書管理法に詳しい早川和宏大宮法科大学院准教授に疑問をぶつけてみたりしました。
そこで、今回から数回に分けて、法人文書と公文書管理法の問題について、ここできちんとまとめておこうと思います。
なお、私も、まだ完全にわかりきったわけではありません。
よって、この記事は「中間報告」的なものとして考えていただければと思います。
参考文献としては、下記に貼っておきますが、宇賀克也氏や内閣府の解釈本があります。
しかし、これらは法律の一文一文の解釈を行っているだけで、実際に運用されたときに出る問題に対する回答が書いてあるわけではありません。
これから書くことは、あくまでもこれは私の「個人的な解釈」です。早川氏にはアドバイスをいくつかの点で頂きましたが、早川氏と同じ解釈をしているとは限りません。
あくまでも文責は私にあります。
そこを踏まえた上でお読み下さい。
それでは第1回目に入ります。
第1回 行政文書と法人文書の管理の違い
私は、これまで国の行政機関に注目してこの問題に取り組んできたので、法人文書の管理については「行政文書とほとんど同じだ」ぐらいにしか考えていなかった。
実際に「ほとんど同じ」なのだが、微妙に違うところがある。
そこでまず、今回は法律上の違いを改めて整理しておきたい。
公文書管理法本文についてはこちらを参照。
表1は、行政機関と独立行政法人等(以下「独法」と略す)における文書管理の違いを一覧にしたものである。
この表を参照しながら、以下の部分を読んでいただきたい。
・文書の定義
これについては両方とも同じ。
「職務上作成・取得」「組織的に用いる」「保有している」という3条件が当てはまるものがこれにあたる。
例外規定もほぼ同じである。
・作成・整理・保存
第11条第1項には、「独立行政法人等は、第四条から第六条までの規定に準じて、法人文書を適正に管理しなければならない。」と書かれており、「準じて」の解釈が問題になる。
宇賀克也氏によると、「準じて」とは「ある事項について定める規定の内容をそれとは異なるが実質的に類する他の事項について、必要な変更を行った上で用いるという意味」(88頁)と指摘している。
独法には「独立性」や「自律性」があるので、それに応じて変更を加えろということである。
なので、独法ごとの特性に合わせて変えても良いが、実質的には、第4条から第6条の規定から外れたようなことはできないということになると思われる(例えば、第4条の「作成」の範囲を狭めて、文書を作らないようにするとか)。
・ファイル管理簿
同じなので略。
・移管・廃棄
この部分については、行政機関と独法では大きく異なってくる。
まず挙げることができるのは、第8条第2項、第4項にあるような「内閣総理大臣の介入」についてである。
行政機関では、文書廃棄の際に内閣総理大臣の同意が必要である。また、内閣総理大臣によって、保存する文書の指定(例えば、阪神淡路大震災の文書は全て保存せよと指定できる)を行うことが可能である。
この規定が独法には存在しない。
この理由は、独法の独立性や自律性を尊重したためである。
つまり、内閣総理大臣による介入はあくまでも行政機関に対してしかできなくて、政府からは独立した機関になった独法には、そこまでの権限はないということである。
よって、「内閣総理大臣の介入」に関わる条項は、以下に述べる「管理状況報告」や「管理規則」に関わる部分でも全て外されている。
この結果、独法が文書を廃棄するときには、他の第三者機関からの歯止めがないということになった。
また、第8条第1項と第11条第4項についても、微妙な表現の違いがある。
それは、独法には「レコードスケジュール」の設定が明記されていないということである。
「レコードスケジュール」を設定するとは、文書を作成した際に、保存期間満了後の措置について定めておくということである。つまり、保存期間が切れた際に「捨てる」か「移管して残す」かということをあらかじめ決めておくということである。
この法文だけを読むと、独法はレコードスケジュールを作らなくて良いということになる。
だが、一方、第11条第2項の「ファイル管理簿に記載しなければならない情報」に「保存機関が満了した時の措置」ということが記載されている。
よって、この条文からは、独法にもレコードスケジュールがないとおかしいということになる。
これをどう解釈すればよいのだろうか。
宇賀氏は、この部分については、独法におけるレコードスケジュールの導入が、行政機関の場合のように「直接的ではないものの、示唆されている」(89頁)という言い方をし、実際には独法に導入を求められていると読んでいる。
私は、これは「立法の際のミス」だと思っている。
つまり、おそらく独法にはレコードスケジュールを導入する気が無かった。だが、管理簿の所に、行政機関と同じものを組み込んでしまったので、そこにズレが生じてしまったのではないか。
なぜそう思うのかは2つ理由がある。
一つめは、わざわざ第11条第4項の記述からレコードスケジュールについて落とした理由の説明が付かないからである。レコードスケジュールが必要なら、別に文面を変える必要がなかったはずだ。
二つめは、内閣府の逐条解説本の法人文書に関する項目に、一切レコードスケジュールについての記述が無いことである。宇賀氏の上記の解説の部分に照らし合わせても、そういった記述は一切出てこない。
つまり、独法へのレコードスケジュールの導入は想定されていなかったのではないか。
ただ、こう「推測」しても、内閣府がそれを認めることは絶対にありえないし、ひょっとすると別の意図があるかもしれない。
もともとこの部分は、これまで独法の文書が国立公文書館等に「移管」できなかった点を改善しようとして作られた条文なので、そちらの意図のみが書かれたということなのかもしれない。
なので、法学者でもない私の「推測」レベルの話だ。
しかし、宇賀氏が書かれているとおり、管理簿に満了後の措置を記載しなければならない以上、独法はレコードスケジュールを導入せざるをえないだろうと思う。
****************
追記 12/23
説明がやや不十分だったので補足(私の誤認も若干あったので)。
第8条第1項と第11条第4項の違いは、前者には「第五条第五項の規定による定めに基づき」と入っているので、そこに書かれているレコードスケジュールに則って移管を行わなければならないが、後者は「歴史公文書等に該当するものにあっては政令で定めるところにより」移管を行うと書いており、レコードスケジュールに則った移管を想定されていない(政令で定められているのは、国立公文書館等に移管することしか書いていない→施行令第18条)。
よって、上記のような説明がなりたっているということである。
なおこれに基づき、表1のこの部分の記述を修正した。
****************
さらに追記 2/1
そもそも論として、第5条第5項のレコードスケジュールの導入の部分が、第11条から「準じ」なければならないので、やはりレコードスケジュールは作られなければならないということだと思う。
よって、上記の推論は的を外している可能性が高い。
推論部分だけを消しても良いが、変えるのにかなり手間もかかるので、とりあえずはこの追記をもって訂正に代えます。
いずれきちんと直したいと考えています。
****************
さらに、第8条第3項に対応する第11条第5項についても、微妙に違いがある。
これは、国立公文書館等に文書を移管する際に、非公開にしたい情報がある場合には、移管元の機関が「意見書」を提出することができるという部分である。
このことに関連して、条文内に出てくる第16条第1項第1号と第2号の、いわゆる国立公文書館等に移管された文書(特例歴史公文書等)の非公開に関する基準も、この条文には関わってくる。
表2を参照していただきたい。
これは、第16条第1項の第1号(行政機関)と第2号(独法)の違いについてである。
基本的には同じであるが、「国の安全」に関わる部分と「公安」関係の部分には違いがある。
行政機関から移管された文書の場合は、基本的には行政機関の長の判断を優先させる仕組みになっている。
一方、独法の場合は、判断を優先させる規定が無い。
元々、「国の安全」や「公安」情報の中で、移管元の判断を優先させなければならないと判断するようなものを、独法が持っているわけがないということでもあるようだ。
もちろん、「判断を聞かなくてよい」という意味でないのは言うまでもない。
なお、他の項目に対して出された意見書については、基本的には国立公文書館等の判断が優先されると考えて良いだろう。
独法の「国の安全」「公安」情報も、この基準と同レベルでの判断ということになるものと思われる。
なお、ついでに述べておくと、意見書に反して国立公文書館等が開示することにした場合には、移管元からの反論提出権が「国の安全」「公安」については認められている(第18条第3項)。
「個人」「法人」情報については、移管元ではなく、開示される「個人」や「法人」に対して反論提出権が認められている(第18条第2項)。
「事務・事業」関係については、移管元の反論提出権は存在しない。
この「移管・廃棄」の規定は、全ての条文において、行政機関と独法では解釈が異なっているので、注意が必要である。
・管理状況報告
違いは、すでに説明したように、内閣総理大臣の介入の部分が独法には無いということ。
つまり、報告義務はあるけれども、報告に対する「監査」のようなものは無いということになる。
・管理規則
これも同様に、内閣総理大臣の介入が独法にはない。
そのため、管理規則は、行政機関のように公文書管理委員会の諮問を通す必要が無く、独自に決めることができる。
ただ、公表しなければならないので、行政機関とはそれほど変わらない規則が作られるものと思う。
以上が、公文書管理法における、行政文書と法人文書の管理の違いである。
付記として、現在制定中の公文書管理法「施行令」(案)での違いがあるのかについて。
表3は施行令(案)における、行政文書と法人文書に関する条文対照表である。
これを見ると、ほとんど違いはないということがわかる。
よって、上記の法解釈の部分に注意を払っておけばとりあえずは良いということになるだろう。
第2回以降は、具体的な事例を挙げながら、個々の場合においてどのように法律を考えれば良いのかについて、考えていきたい。
今のところ取り上げようとしているのは
・法人文書の「移管」にまつわる問題
・独法における「研究関係文書」の取扱の問題
を考えている。
ただ、前者については、かなり根が深い問題なので2回ぐらいに分けるかもしれない。
→第1回補遺へ
→第2回へ
参考文献
その中で、先日の全史料協の大会で、ある国立大学法人の文書館員の方が次のような発言をされました。
公文書管理法はバラ色の法律ではない。国立大学法人で文書移管を行うことのできる「国立公文書館等」に立候補したのは6校に過ぎない。このままでは、全国の国立大学法人では来年以降大量の文書廃棄がおきるおそれがある。
また、自分の大学の文書館は、これまで自分たちが主導となって文書の評価選別(廃棄か移管か)を決めていたが、今回の法律によって、評価選別の機能を失ってしまう。これはゆゆしき問題だ。
この話を聞いたときに、これまで何となく違和感があったものが、頭の中で結びつきました。
10月から11月にかけて、私は母校の小さな研究会で、国立大学法人の文書管理が公文書管理法によってどう変わるのかについて講演依頼を受けて、そのことについて話をする機会がありました。
その時に、色々と調べていく中で、「何かおかしい?」と思うようなことにいくつもぶつかってきました。
だが、その違和感をどうも上手くまとめることができませんでした。
その後、法人文書について勉強し直しました。
その過程で、当の文書館員の方や、公文書管理法に詳しい早川和宏大宮法科大学院准教授に疑問をぶつけてみたりしました。
そこで、今回から数回に分けて、法人文書と公文書管理法の問題について、ここできちんとまとめておこうと思います。
なお、私も、まだ完全にわかりきったわけではありません。
よって、この記事は「中間報告」的なものとして考えていただければと思います。
参考文献としては、下記に貼っておきますが、宇賀克也氏や内閣府の解釈本があります。
しかし、これらは法律の一文一文の解釈を行っているだけで、実際に運用されたときに出る問題に対する回答が書いてあるわけではありません。
これから書くことは、あくまでもこれは私の「個人的な解釈」です。早川氏にはアドバイスをいくつかの点で頂きましたが、早川氏と同じ解釈をしているとは限りません。
あくまでも文責は私にあります。
そこを踏まえた上でお読み下さい。
それでは第1回目に入ります。
第1回 行政文書と法人文書の管理の違い
私は、これまで国の行政機関に注目してこの問題に取り組んできたので、法人文書の管理については「行政文書とほとんど同じだ」ぐらいにしか考えていなかった。
実際に「ほとんど同じ」なのだが、微妙に違うところがある。
そこでまず、今回は法律上の違いを改めて整理しておきたい。
公文書管理法本文についてはこちらを参照。
表1は、行政機関と独立行政法人等(以下「独法」と略す)における文書管理の違いを一覧にしたものである。
この表を参照しながら、以下の部分を読んでいただきたい。
・文書の定義
これについては両方とも同じ。
「職務上作成・取得」「組織的に用いる」「保有している」という3条件が当てはまるものがこれにあたる。
例外規定もほぼ同じである。
・作成・整理・保存
第11条第1項には、「独立行政法人等は、第四条から第六条までの規定に準じて、法人文書を適正に管理しなければならない。」と書かれており、「準じて」の解釈が問題になる。
宇賀克也氏によると、「準じて」とは「ある事項について定める規定の内容をそれとは異なるが実質的に類する他の事項について、必要な変更を行った上で用いるという意味」(88頁)と指摘している。
独法には「独立性」や「自律性」があるので、それに応じて変更を加えろということである。
なので、独法ごとの特性に合わせて変えても良いが、実質的には、第4条から第6条の規定から外れたようなことはできないということになると思われる(例えば、第4条の「作成」の範囲を狭めて、文書を作らないようにするとか)。
・ファイル管理簿
同じなので略。
・移管・廃棄
この部分については、行政機関と独法では大きく異なってくる。
まず挙げることができるのは、第8条第2項、第4項にあるような「内閣総理大臣の介入」についてである。
行政機関では、文書廃棄の際に内閣総理大臣の同意が必要である。また、内閣総理大臣によって、保存する文書の指定(例えば、阪神淡路大震災の文書は全て保存せよと指定できる)を行うことが可能である。
この規定が独法には存在しない。
この理由は、独法の独立性や自律性を尊重したためである。
つまり、内閣総理大臣による介入はあくまでも行政機関に対してしかできなくて、政府からは独立した機関になった独法には、そこまでの権限はないということである。
よって、「内閣総理大臣の介入」に関わる条項は、以下に述べる「管理状況報告」や「管理規則」に関わる部分でも全て外されている。
この結果、独法が文書を廃棄するときには、他の第三者機関からの歯止めがないということになった。
また、第8条第1項と第11条第4項についても、微妙な表現の違いがある。
それは、独法には「レコードスケジュール」の設定が明記されていないということである。
「レコードスケジュール」を設定するとは、文書を作成した際に、保存期間満了後の措置について定めておくということである。つまり、保存期間が切れた際に「捨てる」か「移管して残す」かということをあらかじめ決めておくということである。
この法文だけを読むと、独法はレコードスケジュールを作らなくて良いということになる。
だが、一方、第11条第2項の「ファイル管理簿に記載しなければならない情報」に「保存機関が満了した時の措置」ということが記載されている。
よって、この条文からは、独法にもレコードスケジュールがないとおかしいということになる。
これをどう解釈すればよいのだろうか。
宇賀氏は、この部分については、独法におけるレコードスケジュールの導入が、行政機関の場合のように「直接的ではないものの、示唆されている」(89頁)という言い方をし、実際には独法に導入を求められていると読んでいる。
私は、これは「立法の際のミス」だと思っている。
つまり、おそらく独法にはレコードスケジュールを導入する気が無かった。だが、管理簿の所に、行政機関と同じものを組み込んでしまったので、そこにズレが生じてしまったのではないか。
なぜそう思うのかは2つ理由がある。
一つめは、わざわざ第11条第4項の記述からレコードスケジュールについて落とした理由の説明が付かないからである。レコードスケジュールが必要なら、別に文面を変える必要がなかったはずだ。
二つめは、内閣府の逐条解説本の法人文書に関する項目に、一切レコードスケジュールについての記述が無いことである。宇賀氏の上記の解説の部分に照らし合わせても、そういった記述は一切出てこない。
つまり、独法へのレコードスケジュールの導入は想定されていなかったのではないか。
ただ、こう「推測」しても、内閣府がそれを認めることは絶対にありえないし、ひょっとすると別の意図があるかもしれない。
もともとこの部分は、これまで独法の文書が国立公文書館等に「移管」できなかった点を改善しようとして作られた条文なので、そちらの意図のみが書かれたということなのかもしれない。
なので、法学者でもない私の「推測」レベルの話だ。
しかし、宇賀氏が書かれているとおり、管理簿に満了後の措置を記載しなければならない以上、独法はレコードスケジュールを導入せざるをえないだろうと思う。
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追記 12/23
説明がやや不十分だったので補足(私の誤認も若干あったので)。
第8条第1項と第11条第4項の違いは、前者には「第五条第五項の規定による定めに基づき」と入っているので、そこに書かれているレコードスケジュールに則って移管を行わなければならないが、後者は「歴史公文書等に該当するものにあっては政令で定めるところにより」移管を行うと書いており、レコードスケジュールに則った移管を想定されていない(政令で定められているのは、国立公文書館等に移管することしか書いていない→施行令第18条)。
よって、上記のような説明がなりたっているということである。
なおこれに基づき、表1のこの部分の記述を修正した。
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さらに追記 2/1
そもそも論として、第5条第5項のレコードスケジュールの導入の部分が、第11条から「準じ」なければならないので、やはりレコードスケジュールは作られなければならないということだと思う。
よって、上記の推論は的を外している可能性が高い。
推論部分だけを消しても良いが、変えるのにかなり手間もかかるので、とりあえずはこの追記をもって訂正に代えます。
いずれきちんと直したいと考えています。
****************
さらに、第8条第3項に対応する第11条第5項についても、微妙に違いがある。
これは、国立公文書館等に文書を移管する際に、非公開にしたい情報がある場合には、移管元の機関が「意見書」を提出することができるという部分である。
このことに関連して、条文内に出てくる第16条第1項第1号と第2号の、いわゆる国立公文書館等に移管された文書(特例歴史公文書等)の非公開に関する基準も、この条文には関わってくる。
表2を参照していただきたい。
これは、第16条第1項の第1号(行政機関)と第2号(独法)の違いについてである。
基本的には同じであるが、「国の安全」に関わる部分と「公安」関係の部分には違いがある。
行政機関から移管された文書の場合は、基本的には行政機関の長の判断を優先させる仕組みになっている。
一方、独法の場合は、判断を優先させる規定が無い。
元々、「国の安全」や「公安」情報の中で、移管元の判断を優先させなければならないと判断するようなものを、独法が持っているわけがないということでもあるようだ。
もちろん、「判断を聞かなくてよい」という意味でないのは言うまでもない。
なお、他の項目に対して出された意見書については、基本的には国立公文書館等の判断が優先されると考えて良いだろう。
独法の「国の安全」「公安」情報も、この基準と同レベルでの判断ということになるものと思われる。
なお、ついでに述べておくと、意見書に反して国立公文書館等が開示することにした場合には、移管元からの反論提出権が「国の安全」「公安」については認められている(第18条第3項)。
「個人」「法人」情報については、移管元ではなく、開示される「個人」や「法人」に対して反論提出権が認められている(第18条第2項)。
「事務・事業」関係については、移管元の反論提出権は存在しない。
この「移管・廃棄」の規定は、全ての条文において、行政機関と独法では解釈が異なっているので、注意が必要である。
・管理状況報告
違いは、すでに説明したように、内閣総理大臣の介入の部分が独法には無いということ。
つまり、報告義務はあるけれども、報告に対する「監査」のようなものは無いということになる。
・管理規則
これも同様に、内閣総理大臣の介入が独法にはない。
そのため、管理規則は、行政機関のように公文書管理委員会の諮問を通す必要が無く、独自に決めることができる。
ただ、公表しなければならないので、行政機関とはそれほど変わらない規則が作られるものと思う。
以上が、公文書管理法における、行政文書と法人文書の管理の違いである。
付記として、現在制定中の公文書管理法「施行令」(案)での違いがあるのかについて。
表3は施行令(案)における、行政文書と法人文書に関する条文対照表である。
これを見ると、ほとんど違いはないということがわかる。
よって、上記の法解釈の部分に注意を払っておけばとりあえずは良いということになるだろう。
第2回以降は、具体的な事例を挙げながら、個々の場合においてどのように法律を考えれば良いのかについて、考えていきたい。
今のところ取り上げようとしているのは
・法人文書の「移管」にまつわる問題
・独法における「研究関係文書」の取扱の問題
を考えている。
ただ、前者については、かなり根が深い問題なので2回ぐらいに分けるかもしれない。
→第1回補遺へ
→第2回へ
参考文献
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