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全史料協2010年大会の感想(下) 個別報告その2とまとめ [情報公開・文書管理]

全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)の2010年大会が11月24,25日に京都で行われました。
http://www.jsai.jp/taikai/kyoto/index.html
感想の(上)はこちら
感想の(中)はこちら

感想の続き。個別報告の最後。まとめと合わせて記載。

○早川和宏・冨永一也「公文書館機能の自己点検・評価指標(試論)」

この報告は、全史料協の「調査・研究委員会」による、「自己点検・評価指標」試案の提示である。
だが、実際には「公文書館とはどうあるべきか?」を考える素材を提示したものであったと言えると思う。

全国の自治体には、公文書館を持っていなくても、自治体の中に「公文書館機能」を持っているところが一定数存在する(例えば、重要な歴史資料を選別して永年保存するようなこと)。
公文書管理法が来年4月に施行されるが、実際に「ハコモノ」としての「館」の建設が難しい自治体が多いので、実質的な「公文書館機能」をどのように整備するかという点を見越しての提案だったのだと思う。

そこで、「ミニマムモデル」と「ゴールドモデル」の2つが提示された。
この内容、表現も含めて、なかなか興味深いので、せっかくなので全部打ち込んでみる。

「ミニマムモデル」
【1 基本事項】
1.1 歴史資料として重要な公文書等の管理に関する一連の業務が組織法(条例・規則・規程・要綱等その形式は問わない)上、規定されている。
1.2 歴史資料として重要な公文書等に関する業務状況が何らかのかたちで一般に公表されている。

【2 保存・管理】
2.1 当該自治体の情報公開条例に規定された実施機関のうち、50%以上の機関の歴史資料として重要な公文書等を収集(移管)の対象としている。
2.2 歴史資料として重要な公文書等の収集方針、評価選別基準(これらに相当するもの)等を明文化し、公表している。
2.3 文書管理等の規程上、歴史資料として重要な公文書等の保存場所を規定し、現用文書の保管場所とは異なる専用の場所で管理している。

【3 公開・調査研究】
3.1 自らが管理している歴史資料として重要な公文書等の目録を作成し、それが一般に公表されている。
3.2 閲覧を制限する場合の基準を持ち、一般に公開している。また、その基準に該当するものを除いて、一般利用の制限が行われていない。
3.3 標準的な資料複写料金が、当該自治体の情報公開制度による「写しの交付に要する費用」と同等かそれ以下となっている。
3.4 歴史資料として重要な公文書等の収集・保存・閲覧等に関する調査研究を行い、その成果を毎年度公表している。

「ゴールドモデル」
【1 基本事項】
1.1 条例に基づき公文書館機能を設置・管理している。
1.2 公文書館機能の運営の基本理念や方針を策定し、公表している。
1.3 公文書館機能の中長期的経営目標を策定し、公表している。
1.4 公文書館機能の事業について自己評価を行っている。
1.5 公文書館機能の事業について外部評価を行っている。
1.6 全史料協・日本アーカイブズ学会・企業史料協等、アーカイブズの専門職団体で、公文書館機能の設置・管理・運営に関する報告・執筆等を行っている職員を配置している。
1.7 5年以上継続して運営に携わっている職員がいる。
1.8 ライフサイクルに配慮した公文書管理を条例で定めている。
1.9 公文書館機能の一連の業務が複数の職員で情報共有されている。
1.10 管内市町村に対して、歴史資料として重要な公文書等の保存・公開業務の支援、情報提供等を行っている。[都道府県公文書館限定事項]

【2 保存・管理】
2.1 文書の作成・管理のプロセスに業務支援等何らかの形で関与している。
2.2 歴史資料として重要な公文書等の収集(移管)決定権を公文書館機能が有している。
2.3 設置団体が単年度で作成する資料全体の80%以上を選別の対象としている。
2.4 収集(移管)及び選別作業についての記録を全て保存している。
2.5 廃棄した資料のリストを保存し、公開できるようにしている。
2.6 電子文書・情報の移管・保存を行っている。
2.7 利用頻度が高いと予想される史料の代替化措置を行っている。
2.8 IPM(総合的害虫管理)による保存環境の整備や防災上の配慮等、長期的に資料が保存出来るような処置を取っている。

【3 公開】
3.1 Webを活用して資料へのアクセスを容易にしている。
3.2 利用可能な全ての資料に関する情報がWeb上で公表されている。
3.3 非公開資料の所蔵情報を何らかの形で公表している。

【4 調査研究】
4.1 所蔵資料に関連する資料について、その所蔵先に関係なく幅広く紹介できている。
4.2 設置団体の職員に対して所蔵資料等の積極的な情報提供を行っている。
4.3 講演会・講習会・展示等所蔵資料の利用促進をはかる事業を単年度あたり4回以上催行している。
4.4 一年以内に全史料協、国立公文書館。国文学研究資料館等の主催する研修や講座を受講した職員が運営に携わっている。
4.5 同じ設置団体に属する類縁機関等(公文書館を含む)と地域資料(主に歴史的私文書等)の収集保存について役割分担等の連携が行われている。


内容的に言うと、2.2を守れていない館があることは、先述した竹永報告についての私のコメントを参照すればわかる。
つまり「ミニマム」ですら、まだ達成できていない公文書館が、かなりあるということだ。

なお、良く見ると、「ミニマムモデル」には「公文書館機能」という言葉が使われていない。
また、「ゴールドモデル」では「公文書館機能」という言葉はあるが、「公文書館」という言葉が単独で使われていない。

この二つが、このモデルの意味をものすごく強く表しているように感じる。
つまり、「館」としての建物は本質的には「+α」の部分に属し、「機能」を重視するという考え方である。
ただ、ゴールドモデルについては「公文書館機能」という言葉の使い方をすることで、そこまでの機能を目指す以上は「館」は必要ではないかという工夫があるように見える。

もちろん、委員会側がどこまで意図的にそういう言葉の使い方をしているのかはわからない。
ただ、この議論は究極的には「公文書館」の意義の問い直しを迫っている。

なお、会場からの質問でここでいう自己点検の対象は、公文書を受け入れる「公文書館」限定かという質問が出ていて、報告者はそれに同意をしていた。

質問者はそれで納得していいんかなあ?
確かに、この「モデル」は「公文書館」限定ではある。
「文書館」という言葉ではないので、基本的には「限定」がかかっているんだろう。

でも、議論したいところはそこだけではない。
もっと広がりを持っている話だと思う。


少し漠然とした書き方になるけど、ここからまとめ。

一日目の鈴江英一報告(解説は略)における、公文書館の設置理由の変化の話(歴史資料保存→行政検証、効率化)、竹永報告の利用者の意見を取り入れた公文書館のあり方、井上報告の図書館がアーカイブズ機能を持ちうる話、そしてそれを受けた早川・冨永報告の「自己点検・評価指標」。

大会に掲げられたテーマをもう一度振り返る。
「わたくしたちのアーカイブズ―めざすべき姿―」

その「めざすべき姿」には、ひょっとすると「文書館」という「ハコ」は必要ないのかもというところまで考え得る話になっている。

何をもって「館」でなければならないのか。
専門職員のレファレンス→専門職員を役所に置けば解決!
専用の書庫→やはり役所に専用の書庫を置けば解決!
資料をきちんと保存します→デジタル化すれば解決!
・・・・・・・・・・・(-_-;)

質問だったかで、「結局利用者からすれば、資料が「見れれば」よいのであって、それは情報公開窓口だろうとアーカイブズだろうと関係ない」ということを発言されていた人がいた。
そうだろうと思う。

でも、私は「館」は必要だと考えている。その理由は自分なりに考えがあるが、ここではあえて書かない。
別にもったいぶるようなたいそうな理由ではない。
書かないのは、要するにこれがこの大会において個々に「持って帰るべき課題」であったのではないかと思うからだ。
私は、「めざすべき姿」のさまざまな可能性を、特に二日目の報告は見せてくれていたと考えている。


最後に、感想めいたことを。
おそらく「何を偉そうに言ってやがる」と怒り出す人がいると思うけれども、あえて「外」の人から見えた感想を書いておきたい。

全体的に、文書館に所属していない人の発言は明瞭で、所属している人の発言が非常に不明瞭であったように思う。
特に、前者である早川氏と後者である冨永氏の共同報告は、その特徴をものすごく示していたように思う。

こればもちろん、冨永氏個人の問題ということを言いたいのではない。(誤解の無いように書いておくが、冨永氏とは色々とお話しをさせていただくことがあり、ご本人の公文書問題に対する真摯さを疑ったことはない。)
ただ、後者に属する人たちは「発言の自由が無い」のだなと思ったのだ。
つまり、文書館員の多くは「公務員の一人」として「文書館」に勤務している。よって、発言に所属機関や立場を背負ってしまっており、そこから自由になれないのではないか?

だから、交流会の時に、どなたかが「この交流会こそが大会で最も重要な場」と冗談めかした話をされていたが、まさしくそれは「真実」なんだなと思った。
つまり、酒が入って所属機関や立場を「忘れた」瞬間から、議論が活発になっているということだ。
飲み会の盛り上がり方を見ていて、個人的にそう感じざるを得なかった。

だが、その「制約」の中で発言をする人の中に、二つの種類の方がいるなと思った。

制約はあるけれども、そこから少しでも前に進むために踏み込んだ発言をしようとする人。
制約に不満はあるけれども、結局愚痴で終わって、現状に甘んじた発言をする人。


私は、その前者の人が少数でなく、一定の層で存在することを見れたので、全史料協の可能性を見れたように思う。
全史料協が、そういった前に進もうとする人たちに、より力を発揮させることができるような組織であってほしいと願っています。

この2日間、さまざまなことを考えた。
正直、色々なことを考えすぎて、なかなか寝れずに困ったぐらい。
感想を書くことで少し整理できたが、まだ考えられていない課題も多い。これから折を見て考えていきたいと思う。

知的好奇心を刺激される2日間だった。
主催者のみなさまにはこのような機会を与えてくださったことに感謝を申し上げたい。

また、ここまでの感想を読んでいただきありがとうございました。
私としては、きついことは書いているけれども、後ろ向きではなく建設的なことを書いているつもりです。
そこを読み取っていただければ幸いです。
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