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天皇と中国副主席の会見問題 [天皇関係雑感]

最近話題のこの問題。ちょっと長めですが新聞記事から引用します。

天皇会見、首相が強く要請 宮内庁が異例の経緯説明
朝日新聞 2009年12月11日22時54分

 岡田克也外相は11日の記者会見で、中国の習近平(シー・チンピン)国家副主席が天皇陛下と会見することを明らかにした。15日午前の予定。宮内庁は陛下の体調への負担と相手国への公平性の観点から、外国要人との会見は1カ月前までに打診するよう外務省に求めていたが、今回の打診は1カ月を切った11月26日。官邸側からは今月7日と10日に「首相の指示。日中関係の重要性にかんがみて」と強い要請があったという。

 宮内庁の羽毛田(はけた)信吾長官は11日午後、急きょ報道陣への経緯説明の場を設け、憲法下の象徴天皇のあり方にかかわる問題との懸念を表明した。

 習氏の日本滞在は当初予定より1日短い14~16日で、14日午後に鳩山由紀夫首相と会談し、同日夜には首相主催の晩餐(ばんさん)会に出席する。

 外務省関係者によると、中国側から日中間のハイレベル交流の一環として、今年初めから「国家指導者」の来日を打診されていた。10月ごろに習氏のことであると中国側から説明を受け、あわせて天皇陛下との会見を希望していることも伝えられていた。

 中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席は1998年に副主席として来日した際、天皇と会見している。このため、中国政府は、胡氏の有力な後継候補とされる習氏にも同様の対応を求めた。外務省は中国政府に対して、この「1カ月ルール」を説明。日程を早急に連絡するよう繰り返し申し入れてきたが、中国側からの具体的な日程連絡が遅れたという。

 一方、宮内庁の羽毛田長官によると、外務省から宮内庁に初めて内々の打診があったのは11月26日。宮内庁はルールに照らし「応じかねる」と27日に返答したという。

 その後、12月7日に平野博文官房長官から羽毛田長官に電話で要請があった。断ると10日に再度電話で「総理の指示を受けての要請だ。ルールも分かるが、日中関係の重要性にかんがみてぜひお願いする」と強く要請を受けたという。

 羽毛田長官は「このルールの肝心なところは相手国の大小や政治的重要性で取り扱いに差をつけずにやってきた点だ。『ぜひルールを尊重してほしい』と官房長官に申し上げた」と強調。「現憲法下の天皇のお務めのあり方や役割といった基本的なことがらにかかわることだ」と述べた。

 天皇の政治的利用につながりかねないとの懸念を持っているのかとの質問に「大きく言えばそういうことでしょう」「陛下のお務めのありよう、役割について非常に懸念することになるのではないか」と述べ、「今後二度とあってほしくないというのが私の切なる願いだ」と異例の「訴え」を展開した。

 要請を最終的に受け入れたことについては「宮内庁も内閣の一翼を占める政府機関である以上、官房長官の指示には従うべき立場」とし、「誠に心苦しい思い。大変異例だが、陛下にお願いすることにした」と述べた。

 これに対し、鳩山首相は記者団に「1カ月ルールというのは存じ上げてはいた。しかし、1カ月を数日間切ればしゃくし定規でダメだということで、果たして本当に諸外国との国際的な親善の意味で正しいのか。私から官房長官に指示し、(陛下の体調と)両立できる解決はないかと申した」と説明。「政治利用という言葉は当たらないと考えている」と述べた。
(引用終)

さて、この問題、実はものすごく論じにくい。
新聞各紙を見ると、一様に「政治利用」の問題性を主張しているが、そもそも「政治利用」の定義があやふやなものが多い。
全部を網羅的に見ているわけではないが、たまたま見た時事通信の解説は、その定義をきちんとしている。

天皇の政治利用
時事通信 2009/12/11-23:37

 日本国憲法は天皇を「国民統合の象徴」と位置付け、「国政に関する権能を有しない」と規定。国会の召集、衆院の解散、外国の大使・公使の接受などの国事行為のみを行うとし、政治的行為はできないとされる。
 外国要人との会見は、友好親善のための「公的行為」との解釈が定着しており、政治的な行為とはみなされていない。ただ、鳩山由紀夫首相が「1カ月前までに申請」というルールの特例として、中国の習近平国家副主席の天皇陛下との会見を求めた理由について、平野博文官房長官は「日中の友好、重要な幹部だから」と日中関係の重要性を挙げた。
 これに対し、羽毛田信吾宮内庁長官は「相手国の政治的重要性、国の大小に関わりなくこのルールでやっている」と説明している。日中関係の重要性を特例の理由にすること自体、政治的な判断が働いているとの見方も成り立つ。宮内庁側が習副主席との会見を「公的行為」でなく「政治的行為(政治利用)」に該当しかねないとの認識を示している理由も、ここにあるとみられる。
(引用終)

この上で、私の考えを書いてみたい。

そもそも、この問題は「本音」と「タテマエ」をきちんとわけて考える必要があるということだ。
まずいくつか論点があるように思う。結論も明確にした上で書き出してみると、

1.1ヶ月前というルールを破って天皇と中国副主席の会見をごり押ししたこと。
⇒「政府の責任」でやると言う以上、なんら問題はない。

2.宮内庁長官が、自分の任命権者(つまり上司)である首相に逆らって会見を開いて批判を行ったこと。
⇒日本国憲法施行以後、宮内庁長官は「過度な」政治利用を食い止める役割を担ってきたという事実があり、現状ではやむを得ない。

3.鳩山政権が中国副主席というレベルの人と天皇を会見させることが、平等な扱いに反する。
⇒中国は地位と権力が必ずしも一致しない所があり、判断が難しい。過去に鄧小平は副首相で来日したときに昭和天皇の晩餐会に招かれている(中華人民共和国からの初の高官来日だったということもあるが)。胡錦濤が副主席の時に会っている話も上記引用の通り。


さて、この問題を理解するには、まず天皇の行為の3分類の話をしておく必要がある。

天皇の日常の活動については3つの行為に分けられる。

○国事行為
⇒憲法第7条に記載されている行為。首相の任命など。
○公的行為
⇒憲法には記載されていないが「公的」と認められる活動。国際親善や国体などの地方行幸啓など。
○私的行為
⇒プライベートな行為。友人と会うなど。宮中祭祀もここに位置付く。

さて、今回の問題は、この「公的行為」のカテゴリーにあたるものである。
この「公的行為」は、定義があやふやなため、以前から国会でその「範囲」が問題となってきた。

いま現在適用されている公的行為の「範囲」とは、1975年に当時の角田礼次郎内閣法制局長官が国会答弁で話した3原則が元となっていると思われる。

1.国政に関する権能が含まれてはいけない。(政治的な意味、影響を持つものは含まれてはならない。)
2.その行為については内閣が責任を取る。
3.その行為が象徴天皇としての性格に反してはならない。

(大原康男編『詳録・皇室をめぐる国会論議』展転社、1997年、75ページ)

今回問題となるのはこの1の部分にあたる。
しかし、これはあくまでも「タテマエ」であることを理解する必要がある。

そもそも、天皇の行為はプライベートなものを除けば、すべて「政治的行為」である。
たとえば、現在「政治的でない」公的行為としている国際親善は、その相手国との関係の強化に寄与しているわけだから、それはどう見ても「政治的」であるわけだ。
また、被災地に慰問に行くことも、被災地の人々の不満の軽減という要素はゼロではないわけだから、それは「政治的」なのである。

でも、それらを全て「政治的」と言ってしまえば、何もできなくなる。
そこで、「政治的」なものと「非政治的」なものを「タテマエ」として分けるということを行ったのである。
そして、その「タテマエ」には2と3という縛りをかける、つまり、「やるなら内閣が責任を取れ」「「象徴」である以上、国民の利益に反するようなことはしてはならない」という縛りがかかったのだ。(もちろん、直接的に天皇が政治的に権力を振るう(勝手に外交交渉を行うなど)ということは論外。)

それをふまえた上で、今回の中国副主席会見問題を考えてみる。
今回鳩山政権は、1ヶ月前に通知するというルールを無視して、会見をごり押しした。
これについては、「その行為が国民の利益につながる」と考え、さらにその行為について「内閣が責任を取る」という以上、手続き的に問題があるとは思えない。
ただ、それが「利益」となることについて、きちんと説明する義務を有していることは間違いない。

また、1ヶ月ルールを破るとその国を優遇しているように見えるから駄目だという宮内庁長官の意見は、「タテマエ」として正しい。
つまり、皇室は常に「等距離外交」を行わなければならないという「姿勢」を見せなければならない。それは、「国益上」必要なことである。
でも、本来、天皇の行為は内閣の助言と承認に基づいているというのもまた「タテマエ」としてあるので、それに従う必要もある(だから、長官が最終的に会見を了承しなければならなかった)。

なので、今回の宮内庁長官の発言は、対内的には「内閣が責任を取れよ」ということであり、対外的には、他の国に「決して中国だけを優遇しているのではない」というメッセージを発するためであったと考える。

そして、これに野党やマスコミが批判を加えるというのも必要である。
つまり、天皇の「過度な」政治利用の線をどこで引くかは、政権によって大きく異なるからだ。
だからこそ、野党やマスコミが政権批判の一環として、今回の強引なやり方を批判するのは不可欠だ。これによって、「過度な」政治利用を抑えることが可能になるのだ。

ただ、何というか、私には一つの「出来レース」的な感も無くはないのだ。

A 強引な天皇と中国副主席の会談
B それに対する宮内庁長官の苦言、マスコミの批判
  ↓
a 今回の問題はあくまでも「1ヶ月」というルールに反したから問題になっているということで中国側のメンツは守っている。その一方で、今後きちんとした手続きを踏まないで会見を要求することは日本の内政問題に関わるから困るよという釘もさしている。
b 長官が苦言を表することで中国以外の国に「中国を特別扱いしてない」とのメッセージを発している。それをマスコミが批判することで長官の苦言を後ろから支えている。


といった、対外的にはかなり丸く収まるようなことが、マスコミも含めてきちんと行われているという印象を受ける。
対内的には「内閣が責任を取って」行ったわけだから、今回の副主席との会談がいかに国益につながるかを説明できれば、話としては最終的にまとまる可能性が十分にある。

だが、もし、鳩山首相が問題にされることをしたとするならば、それは「天皇の体調を全く考慮しなかった」ということなのではないかと思う。
ただ、それもあくまでも「人倫」の問題としてであって、「政治的」な問題だと思わない。

でも、正直、今回は完全に中国側の手落ちだろう。1ヶ月前に予定を出していればそもそもこんなに問題にならんかっただろうに。日本側が手をさしのべて中国側のメンツを守ってやったというのが正確なところではないのかなあと。
なんだか、今回の会見が中国を助長させるということを言っている人もいるみたいだけど、逆にこれは次期の指導者に恩を売ったことになるんじゃないかなと思うんだが。

今回の騒ぎを見ていて、その「騒ぎ」方自体が「健全」だなあと思う。
天皇の「公的行為」の幅は、つねに「揺れ動く」ものである。
それを決めるのは時の政権、そしてそれを監視するのも野党や宮内庁、マスコミの仕事でもあるのだ。

また長くなりました。しかも、どう頑張って書いてもこの問題はわかりにくいんだよなあ・・・。

続きを書きました。→こちら

補足
なお、中国がいかに天皇と会うことにメンツをかけているかという話は以下の本が参考になる。
題名がトンデモ本ぽいので疑って読み始めたのだが、きちんと資料にあたって書かれたおもしろい本だった。

中国共産党「天皇工作」秘録 (文春新書)

中国共産党「天皇工作」秘録 (文春新書)

  • 作者: 城山 英巳
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/08
  • メディア: 新書


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yutakarlson

■中国・習近平副主席と天皇陛下の会見が各所で波紋を呼ぶ-国難が迫ったときには必ず天皇制が表に出てくる!!
こんにちは。中国副首相の天皇陛下の拝謁が、各所で波紋を呼んでいます。日本の歴史をふりかえってみると、本当の国難が迫ったときには、それまで表には出てこなかったのに、必ず何らかの形で天皇が表にでてきます。時代によって、朝廷の権威が落ち、一見天皇が象徴的な意味合いしかもたないように見えた時代にあってすらそうでした。そういった意味合いから、私は、天皇陛下の動向は、時代の趨勢をみるための目印にもなると思います。今回の、一連の騒動や、オバマ大統領の天皇への挨拶が、アメリカ国内で波紋を呼んだ件、岡田外務大臣の「天皇のお言葉」発言など、ここしばらく、天皇関連の報道が続いています。さて、これを国難の始まりとみるべきか、あるいはそこまでは至ってはいないと見るべきか、難しいいところです。詳細は、是非私のブログをご覧になってください。
by yutakarlson (2009-12-15 13:16) 

h-sebata

> yutakarlsonさん

申し訳ないですが、私は「国難」とは思いません。
むしろ、「ああ日本は平和なんだな」と改めて思います。

別に民主党は「タテマエ」の裏にある「本音」をさらけ出しただけで、いままでの自民政権と違うことをしているわけではないというのが私の見解です。
それがこの経済難の中で政治問題化しているんですから、なんとも・・・。
by h-sebata (2009-12-16 23:15) 

通りすがり

この問題が気になって来てみました。
それぞれのプレイヤーがどれくらい分かってるかわかりませんが、ちょっと感心しました。
民主党は事後の言い訳をもうちょっとうまくやってほしいもんですが。
by 通りすがり (2009-12-26 15:23) 

h-sebata

> 通りすがり さま

コメントありがとうございました。
おそらくどのプレイヤーも自分たちが思うところを述べているだけなのでしょうけれども。
小沢はやや大人気ないですよね。ああいったモノの言い方をしていなければ、こんなに問題は拡大しなかったと思いますが・・・。
by h-sebata (2009-12-27 13:18) 

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