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司法公文書の国立公文書館移管決定 [2009年公文書管理法問題]

裁判所から国立公文書館への、司法公文書の移管が正式に決まったそうです。
国立公文書館のサイトから引用します。

http://www.archives.go.jp/news/090805_01.html

司法府から国立公文書館への公文書移管の申合せを締結

 国立公文書館法第15条に基づき、内閣総理大臣は国の機関と協議して定めるところにより、当該機関の保管に係る歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置を講ずるものとされています。

 今般、内閣総理大臣と最高裁判所長官との間で裁判所の保管する歴史公文書を内閣府を経て国立公文書館に移管することを定める運びとなり、本日8月5日「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置について」の申合せが締結されました。

 内容の概要は、裁判所の保管する(1)判決書等の裁判文書、(2)司法行政に係る重要な政策等裁判所の運営上の重要事項に係る司法行政文書について、保存期間を満了したものの移管を開始することとしています。

 今後の日程としては、(1)の裁判文書については、当面、大審院時代から昭和30年完結分までの民事判決原本等を今年度から順次、(2)の司法行政文書については、保存期間を終えるものについて来年度から移管のための手続に入る予定となっています。
(引用終)

公文書管理法が公布されてからわずか1ヶ月。スピード決着だ。これはすごい。

具体的にどういったものが移管されるのかは
http://www.archives.go.jp/law/pdf/shiho12_090805.pdf
に詳しいが、簡単に解説してみる。

(1)の内容については次のものが移管されることになっている。(①は正式には(1)だが、記号がダブるので①に変えさせてもらった。)

①民事事件(民事訴訟事件,人事訴訟事件及び行政訴訟事件をいう。以下同じ。)の判決書の原本及びその附属書類(同規程第6条に規定する附属書類をいう。)

②事件記録等保存規程第9条第2項に基づき保存されている民事事件の事件書類(同規程第2条第2項に規定する事件書類をいい,①に該当するものを除く。)及び事件記録(同規程第2条第1項に規定する事件記録をいう。)


まず、用語について先に。
「事件書類」=「判決原本」=判決文の正本のこと。
「事件記録」=判決に至るまでに提出した証拠や書類のこと(判決原本は含まれない)。

①の「同規程」というのは、「事件記録等保存規程」(昭和39年12月12日最高裁判所規程第8号)のこと。
このPDFファイルの92頁から98頁に規程の文面がある。

この第6条で規定する「附属書類」というのは、「事件書類の保存期間」を明らかにするために必要な書類のことなので、保存期間を記載した書類ということだと思われる(ちょっと解釈に自信がない)。
よって、基本的には「判決原本」のみが移管されるということになるだろう。
つまり、判決が出るまでに提出された証拠などは移管されないということだと思われる。

なお、判決原本は、この規程によれば保存期間は50年であるが、判決が出るまでのやりとりの書類(事件記録)は保存期間が最長で10年と決まっている。
そのため、保存期限が来たら廃棄されているようである。

ただし、②に第9条第2項の規程がある。
これは、「史料又は参考資料となるべきもの」は期限を越えて保存しなければならないという規程であり、歴史的に重要な判決に関する書類は、証拠や提出書類も含めて全て保存されている可能性があるということだろう。
裁判所が「重要」と判断したものだけではあるが、特に隠蔽するような書類でもないので、重要なものは残されていると期待したい。

(2)は、裁判所の運営によって出た公文書のうち重要なものを移管するということである。
ほぼ公文書管理法における行政文書と同様の定義になっており、決裁書類だけでなく、意思決定に至るまでの過程の文書も移管すると記載されている。
また、移管の際には「国立公文書館の意見を聴いて」という文章も入ったため、国立公文書館の意志も反映できるようになっている。

これらから考えると、公文書管理法に沿った内容にもなっており、十分な出来ではないかと思う。

なお、「なんで民事だけ?」と思われる方もいると思う。

その理由は、「刑事事件」の書類を管理しているのは「検察庁」であり、裁判所ではないからだ。
つまり、実際には現在でも行政文書として移管可能なのである。もちろん、公文書管理法施行後に移管することも当然可能である。

今のところ、検察庁は、刑事事件関係の書類の保存期間を、判決書は3年から100年、判決以外の記録は3年から50年としており、保存期限後には基本的には廃棄処分している。
ただし、再審請求がなされている記録は全て保管。学術研究等の必要がある場合は別に保管しているようである。

だが、これまで検察庁から刑事事件の判決関係の書類が国立公文書館に移管されたケースは皆無である。
そのため、期限がきたら「捨てている」可能性が高い。
(注記8/11)私の間違いです。移管されたケースはありました。下記の「追記2」参照。

刑事事件の書類は、プライバシーの問題などもあって、移管されたとしても閲覧に大きな制限が課される可能性はある。
だが、まずはきちんと残すことが大切だと思う。
戦時下で特高警察に捕まった人達にとっては、逆にそれを公開することが自分の無罪を証明する道であるかもしれない。

なので、公文書管理法が成立し、民事訴訟文書の移管も決まった今こそ、検察庁も重要な文書は残して移管するという方法を考えてほしいと思う。

今回の国立公文書館の動きは、非常に迅速で素晴らしい。
この調子で立法府のほうも頑張ってほしいなあ(こちらはなかなか難しそうだけど)。


(追記)
なお、司法文書について上記の説明では良くわからなかったという方は、以下の書類が参考となるのでそちらを見てください。

「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」第11回の資料1と2
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/koubun/dai11/siryou1.pdf
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/koubun/dai11/siryou2.pdf

今回の話は正直私にも難しい話だった。大学の同期の弁護士を捕まえて色々と質問攻めにしてしまった。どうもありがとう!

[追記2] 8/11

本日、「明治期の法と裁判研究会」の増田修弁護士から、下記のようなメールを頂きました。

 はじめまして、あなたのブログの「司法府から国立公文書館への公文書移管の申合わせ」をみました。
 その中で、あなたは「これまで検察庁から刑事事件の判決関係の書類の国立公文書館に移管されたケースは皆無である」と書かれています。

 しかし、明治15年治罪法が制定される前の刑事判決原本は、各地方検察庁から国立公文書館に移管されています。「広島における陪審裁判」(『修道法学』第29巻第2号、平成19年2月)492頁を参照してください。なお、学術調査の場合は、戦前の刑事判決原本は閲覧謄写ができます。

 私は、広島修道大学加藤高名誉教授などと、「明治期の法と裁判研究会」を結成し、中国地方の裁判所に残っている、明治期の裁判記録・帳簿を調査しています。
 また、広島控訴院管内の陪審裁判に関する資料調査もしています。

 その過程で、刑事関係の事件簿類は、裁判所に保存されており、また刑事判決原本は各地方検察庁に保存されていることがわかりました。

 今年の4月19日、九州大学で行われた法制史学会第61回総会で、「裁判所所蔵文書から見る戦前期司法の諸相」という報告のレジュメが、法制史学会のホームページに出ていますので、参照してください。なお、私は、その中で「広島・山口における陪審裁判」という報告をしています。

(以下略)

慌てて国立公文書館の検索で調べたところ、確かに1882年(明治15年)以前の刑事判決原本は確かに公開されていました。よって、全く移管されていないというのは私の間違いです。ここに訂正いたします。

さて、増田さんからのメールには、他にも興味深い情報が含まれている。
特に、刑事裁判関係の書類は裁判所にまだかなり残されているという点だ。

これについては、増田さんがおっしゃっている法制史学会の報告要旨によれば、「聴訟表、民事事件簿、訴状受取録、訴訟件名録、訴訟事件銘細録、訴訟明細表、却下文書、裁判申渡案、上訴裁判通知録、民事審理表その他」が広島や山口などの裁判所から見つかっているとのことである。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jalha/soukai/sk61.htm
↑このページのかなり下の方。「裁判所所蔵文書から見る戦前期司法の諸相──広島控訴院管内を中心に──」というレジュメ。

つまり、今回の裁判所の公文書を国立公文書館に移管するという場合、おそらくこれらの資料も移管されることになるだろう。
もちろん、きちんと保存され公開されるのは良いことなのだが、やや気になるのは、地方の高裁などで持っている資料も、東京の国立公文書館に移管されてしまうということだ。
現在のシステムではやむを得ないことなのだが、その地方で調査をされている方には逆に不便になってしまうかもしれないとは思う。

今後も、もし何か私が誤った情報を書いていた場合は、ご指摘いただけたらと思います。
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