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【連載】公文書管理法成立後の課題―第7回 地方公文書館設立運動の推進 [【連載】公文書管理法成立後の課題]

公文書等に関する法律(公文書管理法)が成立、公布されました。
そこで、全8回にわたって、成立後の課題について書いてみたいと思います。

第1回 政令事項
第2回 公文書管理法の実効性
第3回 国会の公文書
第4回 国立公文書館等の規則の共通化(上)
第5回 国立公文書館等の規則の共通化(下)
第6回 国立大学法人の文書移管
第7回 地方公文書館設立運動の推進←今回
第8回 歴史学的素養と行政法的素養

第7回 地方公文書館設立運動の推進

今回の話は、これまでとかわって、あまり精密に詰めた話をするつもりがありません。
思いついたことをまとめずに書きます。
何か少しでもヒントになるようなことがあればよいなと思います。


以前、第2回公文書管理フォーラムで、富田健司さん(栃木県芳賀町総合情報館)に地方公文書館の話をしていただいた。その時のことについて、ブログでも記事を書いたことがある。

現在の地方公文書館の設置状況は、

都道府県 30館(47都道府県)
政令指定都市 7館(15市)
市区町村 16館(約1800市町村)


である。→公文書有識者会議の資料に2008年4月現在の設置状況の地図あり

つまり、都道府県レベルでも、まだ公文書館が存在しない県が17県も存在している。

今回の公文書管理法には、第34条に次の文面が入った。

(地方公共団体の文書管理)
第34条
地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、その保有する文書の適正な管理に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めなければならない。


この文章は、もちろん「努力規定」ではある。であるが、こういった条文が入ったことで、「公文書館の設立を!」と言う法的な根拠ができたことは間違いない。

そこで、是非とも各地の公文書館がない自治体にお住まいの方達に公文書館設立運動を推進してほしいと願っている。
私は歴史研究者なので、特に地方在住の歴史研究者に呼びかけてみたい。

まず、地方に公文書館を作るための根拠が必要である。
そのためには、「歴史研究のためだけに作る」というような研究者エゴ的な根拠では、一般市民や議員達に理解を得られないことは肝に銘じた方がよいと思う。

そこで、例えば、次のような点を考慮して、根拠を作ってみたらどうかと思う。

1.公文書館を作ることは、行政の効率化とつながっている。また、市民への説明責任を果たすためにも文書を管理し、保存し、公開することが有用であるといった、「現在の行政に意味がある」という視点を組みこむこと。特に、公文書管理法の地方版にあたる「公文書管理条例」の制定についてはきちんと強調するべき。

2.公文書館はその自治体の「歴史」を保管するところであるということをアピールし、郷土ナショナリズムを利用した視点を組みこむこと(ただし、やりすぎると、地域に不利なものは捨てかねないので注意は必要)。

特に、ただの「歴史文化施設」という博物館や美術館のような捉えられ方をすると、「この自治体財政厳しい中で・・・」という理由で絶対に容認されない。現に、岐阜県歴史資料館は「行政改革」と称して潰されかかっている。
そのため、いかに現在の行政に有用であるかという視点は必要不可欠である。

また、公文書館関係者の方は、公文書館は図書館などとは全く別の概念で作られているから、別に施設が作られるべきだと主張する人も多いが、私はそのあたりは「まず設置されることが重要」という観点から、あまり強硬に別施設を作れと言うべきではないと思う。

以前から指摘しているが、結局公文書館を動かすのは「カネ」と「人」である。
箱モノを作るのにお金をかけすぎてしまって、その後お金が来ないとか、ろくに人材を雇わずに放置されれば、結局ただの「倉庫」になりはててしまう。
とりあえずは、廃校になった学校の校舎とか、図書館併設とか、どういった形でも良いから、まずは公文書館を作る。そしてそこにきちんと整理できる人を配置することを第一に求めた方がよい。
一度できれば、その後に有用性をアピールすることも可能になる。まずは作られなければ、理解も深まらないと思う。

そして、こういった運動を起こすためには、是非とも既存の地方公文書館関係者の力が必要である。
歴史研究者だとしても、アーカイブズとは何かという所から説明が必要な人はいっぱいいる。歴史研究者ではない一般の方ならなおさらである。
そういう方達への啓蒙活動は、既存館で働いている方達の経験と知恵が必要である。

そこで、各地方にある歴史研究者の研究会(学会)に、是非とも呼びかけたいことがある。
まず、自分の隣県にある公文書館の担当者を研究会に呼び、自分たちがどのような要求を掲げて運動を行わなければならないかという、具体的な方針についての勉強会を行ってみたらどうだろうか。

またその際には、地方公文書館の方は「自分は公務員だからあまり思い切ったことは・・・」として自重するのは止めてほしいと思う。
むしろ自分たちの置かれている待遇を改善するためにも、各地に公文書館の設置を呼びかけるのは重要である。
各地に公文書館が置かれ、その重要性が認識されることは、回り回って自分の所に還元があるはずである。

そして、自分たちの公文書館で、上から何か問題を押しつけられるようなことが起きたのであれば、地元の歴史研究者などに働きかけて反対運動を作ってもらうなどの、もっと政治的な動きを裏から行うべきである。
公文書館で実際に現場で苦労している方が、色々な「悩み」を「外部」にきちんと発信していかなければ、結局は状況の改善にはつながらないのである。

公文書館の人達が、どれだけひどい待遇で苦労して働いているかは、思ったほど知られているわけではない。特に非常勤職員への依存度が高い。
そういう所で働いている方は、私と同世代(+α)の「高学歴ワーキングプア」予備軍(正規軍!?)の人達が非常に多い。

もちろん歴史研究者等、利用者の側の鈍感さを責めることはできようが、それよりも公文書館員の側も、もっと自分たちの置かれている状況について、外部に理解者を増やさなければならないと思う。
もちろんそういう働きかけを受けた研究者は、往々にして地位は安定している方が多いのだから、公文書館の苦境に対してなんらかの支援をしなければならないのは言うまでもない。

地方公文書館は第一義的にはあくまでもその地方の住民のためにあるべきものである。
それは、中央の学会が設立を呼びかける音頭を取るというものではない。地元の学会や住民が声を挙げることが必要である。
そしてその上で、要望書などを出すときには、中央の学会にも賛同を呼びかけるといったことをして、全国からも設立の要望があるということをアピールしたらどうかと思う。

私が歴史学研究会の会務幹事(現場監督みたいなもの)をしていたときには、時折、地方の学会から色々な問題の賛同署名を求める要望が届いており、基本的には名前を連ねることに協力していた。
どの学会も、要望書の内容がしっかりしていれば、署名を重ねてくれることは多い。ダメ元でも色々な学会に手紙を送って協力を要請してみると良いと思う。

なお、こういった要望書を提出するときは、議会の請願手続きを取るといった公式ルートを使うことや、首長に直接会って手渡すなどの「実現に向けてのあらゆる手段」を使うべきである。
ただ「送りつけて終わり」というのは、実効性が弱いし、相手の心には届かない。会いに行くか否かは本気度のバロメータと取られるのではないかと思う。できれば会いに行くときには、新聞記者を同席させるなどして広報活動も兼ねると良いと思う。

なお、こういった「政治に近づく」ことそのものを嫌がる研究者は非常に多い。だが、これは「一市民」として、「一有権者」としての行動であると認識するべきである。
「政治に取り込まれる」のではなく、「政治を利用する」ぐらいの意気込みは、何かを実現するときには必要な意気込みだと思う。

また、今回の公文書管理法での色々な活動を通してわかったことだが、こういった公文書館設立運動には二種類の専門家との連絡が不可欠である。
一つは行政法学者
二つめは、情報公開を通して行政監視を行ってきた人達
である。

前者は、具体的な要望を作り上げるときに必要な人材である。行政というのは結局は「法」によって生きている。
その事情がわかった上で、歴史研究者としての要望を盛り込んでいかないと、結局非現実的な要望を言っているだけで、なんら影響を与えることはできない。
後者については、公文書管理の重要性について、一番知っている住民だからである。こういった人達と連携することが、一般の人達に公文書館の重要性を知ってもらうには不可欠である。

そして、この連携は、公文書館の充実化にも必ずつながる。
なぜなら、残念ではあるが行政法学者や情報公開の市民団体の人達は、現役の行政文書の扱いに興味が集中する傾向がある。公文書館に移管されてくるような歴史公文書については、よくわかっていない方がほとんどである。
そういった方達に、歴史公文書の重要性をアピールして理解を増してもらうことは歴史研究者の仕事であると思う。

なお、公文書館を作るには、結局は「政治の力」が必要である。特に、地方では多数を占めることの多い保守系の首長や議員達を動かす必要がある。
どうしても、「説明責任」という言葉が使われると、とたんに自分の政治資金問題などを追及するのか、といったような非常にアナクロ的な反応をされることがあるように思う。
でも、公文書管理問題はそういった話ではない。むしろ、その地域の歴史を残すためにも必要不可欠なものでもあるはずである。だから、説得の仕方に気をつければ、保守系の政治家でも十分に話は通じるはずである。

特に、「政治家への説明」ということはもっと考えられて良いと思う。なぜなら、政治家は多種にわたる活動を行っており、よほど関心がない限りは、自分から「公文書館」について関心を持って調べてくれる人などいないからである。
むしろ、こちらから耳学問的に色々なことを説明しに行くことが不可欠であると思う。実際の議会での質問文ぐらい作るといったことは言っても良いと思う。
政治家は普通「有権者」の発言を無下にはできない。できれば、その政治家の選挙区の住民を先頭に立てて、話をしに行ったらどうだろうか。政策秘書レベルなら必ず会ってくれると思う。

最後に、「広報戦略」はきちんと考えて行った方がよいと思う。
インターネットでの情報発信や、地元の新聞記者などを巻き込んで記事を書いてもらうといった啓発活動が必要である。
政治家と会って話をしたというレベルのことだって、どのようなことを話したのかということを、ブログなどでしっかり発信していくことが必要である。

残念だが、歴史学の中央組織である日本歴史学協会を初めとして、歴史学系の学会はこういった広報活動を苦手とする傾向があると思う。
それはひとえに歴史研究者は「コンピューターの扱いがダメな人の集団」だという所もあるのだが(未だにパワーポイントがほとんど使われない学会というのも珍しいだろう)、そのようなことを言っている場合ではないと思う。

自分たちの意見を通したいのであれば、それを支持してくれる人を増やすしかない。増やすには広報戦略は必要不可欠である。
広報をろくにしないで、「要望書を出しました」「政治家と話してきました」ということを内部の人だけがわかっているようなことは、はっきりいって政治的には何の役にも立ちはしない。
農協みたいな巨大組織でもバックに付いているならそれでも良いのだろうが、そういう組織のついていない歴史学やアーカイブズ関係の人は、一般の人達を味方につけるしかないのだ。

最近のワーキングプアを支援する団体などを見ていると、こういった「広報活動」にかなり力を入れているなということがわかる。
彼らはバックに農協みたいな巨大な組織は存在していない。だからこそ、マスコミなどを利用した広報を行い、問題をここまで可視化させることに成功したのではと思う。
こういった努力が、公文書館設置問題にも必要なことだと思う。


なお、なぜここまで「政治的な動きの重要性」を強調するのかには理由がある。
今回の公文書管理法に関して、公文書市民ネットの他のメンバーの活動を見ていて、それを強く感じたからである。

ある方は、自分で資料を作って内閣委員会に所属する議員の部屋に行っては資料を配り歩いていた。
ある組織は、自分たちの意見を反映させるために、議員にアポを取って説明をしに行っていた。
また、国会での参考人として関係者を推薦するといったようなことをされていた人もいた。(実際に呼ばれていた。)
そして、ある政党につながりの強い方は、「何か国会で質問して欲しいことがあれば渡すよ」と言ってくださり、実際に私が渡した意見書からいくつかの項目を国会で質問してくださった。

これらは、私には非常にカルチャーショックの大きい出来事だった。
学者の世界だけで生きてきた私にとって、政治を動かすために自分の力をフルに活用している人達がいるという事実だけで、圧倒されるものがあった。

もちろん彼らが政治を動かしているわけではない。最終的には議員の手腕にかかっている。
でも、議員達に問題を認識させ、理解させること、そして政策をよりよい方向へと引っ張ろうとする努力の重要性は今回強く認識させられた。
だから、「政治的な動きの重要性」について強調しているのである。


さて、以上であるが、「状況もわからずに好き勝手に言いやがって」と思っている方も多いと思う。もちろん、私は現場や地方のことをあまりわかっていないことは承知の上である。
でもそういう読みをするのではなく、「この部分は使えるかも?」みたいな断片的な読み方をしてほしい。少なくとも「100%空想で無理」みたいな話をしてはいないと思っている。

もし、「こういったところは良いと思う」「ここはおかしいのでは?」「これはどういう意味?」みたいな意見などあれば、コメント欄に書き込んでいただければと思います。必ずご返答いたします。

また、ここまで書いた以上、自分にできることがあれば、いくらでも協力・相談には応じます。
ただ、私は安定した職についている者ではなく、「高学歴ワーキングプア」予備軍であるということは御配慮のほどを願えたらと思います。

第8回
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