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【連載】公文書管理法成立後の課題―第6回 国立大学法人の文書移管 [【連載】公文書管理法成立後の課題]

公文書等に関する法律(公文書管理法)が成立、公布されました。
そこで、全8回にわたって、成立後の課題について書いてみたいと思います。

第1回 政令事項
第2回 公文書管理法の実効性
第3回 国会の公文書
第4回 国立公文書館等の規則の共通化(上)
第5回 国立公文書館等の規則の共通化(下)
第6回 国立大学法人の文書移管←今回
第7回 地方公文書館設立運動の推進
第8回 歴史学的素養と行政法的素養

第6回 国立大学法人の文書移管

今回、公文書管理法が成立したが、「別に自分は歴史研究者でもないから関係ないよ」と思っている大学勤務者は多いような気がする。
だが、今回の公文書管理法がは、国立大学法人に大きな影響を与えることになることに気付いているだろうか。

公文書管理法は、「行政機関」と「独立行政法人等」という二つを対象として作られたものである。
その「独立行政法人等」というのは次のように定義されている。(第2条)

2 この法律において「独立行政法人等」とは、独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人及び別表第一に掲げる法人をいう。

さて、この独立行政法人通則法の第2条第1項とは独法の定義を書いたものである。基本的に独法はこの条文を元にして作られている。

ただ、国立大学法人のように、別に「国立大学法人法」という法律によって設置されている機関もある。
こういった機関を含めるために独立行政法人情報公開法や今回の公文書管理法には「別表第一」というものが入っている。
この「別表第一」には、日本銀行や国立大学法人や日本中央競馬会(JRA)などが含まれている。→詳しくはこちら(3月3日の公文書管理法「案」の段階(修正前)のもの)
つまり、今回の公文書管理法は、国立大学法人も網にかけているのである。

ちなみに今回対象となる独法の一覧はこちら

さて、ではどういうことが施行後に起きるだろうか。
各部署での文書作成に際して「レコードスケジュール」を作る必要があったりすることは言うまでもないが、もっとも問題になるのは「歴史公文書を移管しなければならない」という点である。

これまで独法の公文書を公文書館に移管をする必要がなかった。そのため、保存期限が来たもののほとんどは捨てているのではないかと思われる。
今回の法律で、重要な文書については「移管」する必要が出てくることになる。これは大きな変化である。

しかも、移管先は国立公文書館である。
つまり、自前の公文書館がある大学はそこに移管することになるだろうが、もし存在していなければ、重要な文書を国立公文書館に引き渡さなければならないという義務を負うことになるのである。

今のところ、国立大学法人で「アーカイブズ」を持っているのは、
北海道大学大学文書館
東北大学史料館
東京大学史史料室
名古屋大学大学文書資料室
京都大学文書館
広島大学文書館
九州大学大学文書館
ぐらいだと思われる(他にあれば情報を)。大阪大学は準備中。

これ以外の大学は、2011年4月までに自前で公文書館を作れない場合は、必然的に国立公文書館への文書移管を迫られることになるのである。
もちろん我が母校一橋大学も言うまでもなく公文書館を持ってないので、歴史公文書を国立公文書館に移管しなければならない。

別に大学ナショナリズムを煽って、「国立大学法人の文書は国立大学法人のモノ」だということを主張したいわけではない。
これは、大学アーカイブズを整備する絶好のチャンスだということを強調したいのである。

これまで、大学の歴史に関係する文書というのはほとんど重視されてこなかった。
しかし、少子化の流れの中で、次第に大学は広報活動に力を入れるようになり、自分の大学の伝統の力というものの再評価が進んでいるように思う。

この中で、大学アーカイブズの存在価値は非常に高くなっていると思う。
これを作ることによって、大学の公文書の管理や、大学関係者の個人文書の収集などを行い、大学の歴史をしっかりと保存公開する仕組みを整備することができるようになる。
そうすれば、大学の広報活動にも必ず有用になるだろう。

ただし、気をつけなければならないのは、「歴史資料保存施設」としてのみ大学アーカイブズを位置づけるのは、非常に危険であるということである。
国立大学法人はどこも予算が削られていて、財政状況はあまり良いとは言いがたい。
その中で、「歴史資料保存として重要」というレベルでは、学内での合意を取り付けることは不可能だろう。

だからこそ、「公文書管理法」との関係が重要になる。
つまり、「現用文書」が保存年限を来たときに移管できるアーカイブズを作り、行政の効率化への貢献を行うという点が、大学アーカイブズに求められる理念の一つとして重要になるのである。

上記した既存の大学アーカイブズの多くは、「年史編纂」(百年史など)で使った資料のいわば「後始末」的に作られたものがほとんどである。そのため、現用の行政文書とは全く切り離された形で、ただ「大学の古い文書を持っているだけ」という機能しか果たしていない。
現用文書からのスムーズな文書移管を行えているのは、情報公開法の制定の時に作られたという経緯を持つ京都大学と広島大学ぐらいではないか。

以前、広島大学文書館長の小池聖一氏から話をうかがったことがあるのだが、広島大で文書館を作るときには、ほとんどの学部の教授達は反対だったらしい。それを押し返したのは、結局は事務職員を味方に付けたことだということを言っておられた。
実際に自分の大学の事務室とか行くと、文書があふれていて、隣の会議室の壁沿いに文書棚がびっちりとあったりする。こういう状況では、個人情報の流出なども含めて、色々な問題が起きうる危険水域に常に達していると思わざるをえない。

そのため、文書管理がいかに行政の効率化に重要であるのかということを前面に押し出しながら、歴史的に重要な資料の収集も行うという二つの機能を有するような大学アーカイブズを作ることが重要なのではないか。

とりあえず既存の大学アーカイブズについては以下の二つの本が参考になる。是非とも興味のある方は読んでいただきたい。

小池聖一『近代日本文書学研究序説』現代史料出版、2008年
A5判/上製/380頁/本体価格5,800円/ISBN978-4-87785-184-2
http://business3.plala.or.jp/gendaisi/xml_files/4-bunsyogaku.xml
http://www.7andy.jp/books/detail/-/accd/32130949

日本の大学アーカイヴズ

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  • 作者: 全国大学史資料協議会
  • 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 単行本



第7回
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コメント 3

wonox

ご教示ください。公文書管理法をざっと見た限り国立大学法人の自前文書館とは、2条3項の二「行政機関の施設及び独立行政法人等の施設であって、前号に掲げる施設に類する機能を有するものとして政令で定めるもの」で、政令で告示されないといけない、という理解であっているでしょうか?
そうだとして、その政令は公文書管理委員会で作るはずで、その委員会がまだない、という理解もあっているでしょうか?

by wonox (2010-06-02 13:01) 

瀬畑 源(せばた はじめ)

> wonox さま

簡単にお答えまで。

> 公文書管理法をざっと見た限り国立大学法人の自前文書館とは、2条3項の二「行政機関の施設及び独立行政法人等の施設であって、前号に掲げる施設に類する機能を有するものとして政令で定めるもの」で、政令で告示されないといけない、という理解であっているでしょうか?

「政令で告示されないといけない」というのはやや解釈が違うかと思います。
この部分を理解するには、情報公開法とその施行令を御覧になると良いかと思います。
独法でお話しを頂いているので、独法情報公開法を元にお話しをいたします。

独法情報公開法第2条第2項第2号で、「政令で定める公文書館その他の施設において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの」という規定があります。
これに対応する独法情報公開法施行令の第1条には

第一条  独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律 (以下「法」という。)第二条第二項第二号 の政令で定める施設は、次に掲げる施設とする。
一  独立行政法人国立公文書館が設置する公文書館
二  独立行政法人国立文化財機構が設置する博物館
三  独立行政法人国立科学博物館が設置する博物館
四  独立行政法人国立美術館が設置する美術館
五  前各号に掲げるもののほか、博物館、美術館、図書館その他これらに類する施設であって、保有する歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料について次条の規定による適切な管理を行うものとして総務大臣が指定したもの

というように書いてあります。
つまり、政令で告示されるのは、文書館の「指定の方法」であって、文書館そのものではありません。
この政令に基づいて、総務大臣の告示という形で指定を受けるという形になっています。
おそらく公文書管理法もこのような形になるのではないかと思います。

政令については、公文書管理委員会は諮問を受ける立場なので、委員会自体が作るわけではありません。
ただ、委員会のメンバーにしろ、政令案にしろ、まだ発表されていません。
もう施行まで1年切っているのに、未だに発表されていないのは困ったものなのですが。

もしまだ説明が不足していたならば、またお書き込み下さい。
by 瀬畑 源(せばた はじめ) (2010-06-02 23:13) 

wonox

早速丁寧なご回答ありがとうございました。
「総務大臣が指定したもの」となるために官報に告示されないといけない、というところをごちゃごちゃに理解していました。
政令案が発表されたあたりで、慌てて大学文書館を作る、という動きになるのかもしれませんね。ヴァーチャルに規則だけ整えて館長を併任してできあがり、ではまずいですからね。
by wonox (2010-06-03 12:45) 

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