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【連載】公文書管理法成立後の課題―第4回 国立公文書館等の規則の共通化(上) [【連載】公文書管理法成立後の課題]

公文書等に関する法律(公文書管理法)が成立、公布されました。
そこで、全8回にわたって、成立後の課題について書いてみたいと思います。

第1回 政令事項
第2回 公文書管理法の実効性
第3回 国会の公文書
第4回 国立公文書館等の規則の共通化(上)←今回
第5回 国立公文書館等の規則の共通化(下)
第6回 国立大学法人の文書移管
第7回 地方公文書館設立運動の推進
第8回 歴史学的素養と行政法的素養

第4回 国立公文書館等の規則の共通化(上)

さて、まず国立公文書館「等」の「等」って何?という話から。

公文書管理法では、歴史公文書の扱いについて記載されている条文において、受け入れ機関を国立公文書館「等」という記載の仕方をしている。
これは、歴史公文書の受け入れ先が国立公文書館だけではないということを意味している。

具体的には、外務省と宮内庁のことである。(もちろん他にも存在するが、重要なのはこの2つになる。)
外務省は外交史料館、宮内庁は書陵部という自前の公文書館を持っており、ここに文書を移管することが許されている。
この同じ省庁内への文書の移管にはらむ問題ということについては、すでに書いているので、別の話を書きます。

なお、ここからの話は、6月21日に東アジア近代史学会で話したことです。レジュメはこちらの記事から。


今回の公文書管理法において、国立公文書館等は利用規則を作るときに、内閣総理大臣が公文書管理委員会への諮問を経て承認するという手続きを踏まなければならなくなった。(第27条)
これは、各館が共通した規則を作らなければならないということを意味している。

実際に、衆議院と参議院の附帯決議では

十五 宮内庁書陵部及び外務省外交史料館においても、公文書等について国立公文書館と共通のルールで適切な保存、利活用が行われるよう本法の趣旨を徹底すること。(参議院では十一に同文あり)

との決議が加わった。
また「統一的な文書管理」という文言は、政府側がずっと強調してきたことでもある。
これによって、国立公文書館、外務省外交史料館、宮内庁書陵部の3館は、規則の共通化が図られることになる。

そこで、私のこれまでの体験や知識から、是非ともこういったことは規則に取り入れてほしいという点を列挙してみたい。

1.手続きの明確化

・開示申請から開示までの期日を規定する
 情報公開法のように、30日以内、30日延長可能、それ以上延長する場合は公開期日を明示する。延長する場合、不開示部分がある場合は文書にて明示すること。


現在、国立公文書館では、移管された文書の目録登載を最優先にしており、非開示部分を含みそうな文書は「要審査」として、請求されてから公開の可否を判断をすることにしている。
この方法自体は非常に良い制度である。目録に載らなければ、何が移管されたのかすらわからない。昔は、公開の可否を判断してから目録に登載していたので、国立公文書館に移管されたら10年は出てこないなどと言われていたが、そういうことは一切なくなった。

そして、私の友人の話によれば、請求後、審査にはおおよそ2ヶ月ぐらいかかっているとのことである。
手続き的には、申込書をFAXなどで送ることが必要であり、審査経過については1ヶ月ごとぐらいに電話がかかってくるらしい。
ただ、必ずしもその手続きについては、具体的に規則があるわけではない。

また、私の体験では、宮内庁書陵部では資料の閲覧にだいたい2~3ヶ月を要する。ただし、ここは口頭で請求を伝える。そして、基本的に開示されるときまで一切連絡が来ない。
そのため、あまりにも時間がかかっている場合は、こちらから連絡をしないと状況が把握できない。そもそも向こうがちゃんと請求を受けて作業をしているかどうかもわからない。

ちなみに、私が書陵部で申請して2年半経過して1頁も開示されていない文書もある。実は、このブログを立ち上げたときに、「書陵部に請求した」という記事を書いたのだが、その時に請求した「侍従職業務日誌 昭和33年」という資料は、未だに開示がなされていない。すでに約2年10ヶ月が経過しているのだが。
昨年初めぐらいにどうなっているか聞いたのだが、その時には「他の人が似たような資料を先に請求しているから、そちらを優先的にやっているので、1ページも審査に入っていない」との回答を得ている。その時ですでに1年半経過しているわけだが・・・。

少なくともこういった事態は避ける必要がある。
やはり、情報公開法のように文書主義を徹底させる必要がある。

今回の公文書管理法には第16条に「利用請求権」が明記され、請求をされた場合には「見せなければならない」という義務が国立公文書館等に課されることになった。
これまでは、あくまでも「供する」という「見せてやる」という立場に非常に近い状況だったので、手続きが多少曖昧でも許されていた。
だが、公文書管理法ができた以上、このような曖昧な請求の受け方が許されるはずもない。

請求をする際には文書で受け取り、開示予定日を請求者に文書で通知する。不開示部分があった場合には文書できちんと説明するといった手続きの厳密化が必要となると思われる。


・部分開示の際のコピー黒塗り開示
 もし、文書の一部に非開示部分が混ざった場合、それ以外の情報を見せるためにも、該当ページをコピーして非開示部分を黒塗りするという手続きを取るべきである。


これに該当するのは書陵部だけである(国立公文書館と外交史料館はコピーに墨塗り公開になっている)。

私の体験だが、書陵部では部分開示でも、その該当ページを袋とじ(紙袋でページ全てを覆うこと)にして見せなくしている。
書陵部の説明によれば、原本をそのまま見せているので墨を塗るわけにもいかない。よって、袋とじにしている。また、コピーする場合でも、原本保護のために、専門の業者にマイクロフィルムで撮影させ、それを紙に焼くという作業が必要であり、予算がないのでそれをすることはできないとのことだった。
この開示方法の場合、どのようなことが起きるかというと、10ページぐらいの重要な報告書があった時、その真ん中の1ページに個人情報があるからといって袋とじにされて見れなくなっているというようなことがあるのだ。

たぶん歴史研究者ならわかってくれると思うのだが、このような状況の時のやるせなさといったら・・・。
ものすごく面白い資料にあたったのに、途中が隠されて内容が全くわからないのだ。
資料としても使いづらいし、これは本当に資料を見る気力を失う。
そして、そういう事態に私はすでに何回も遭遇している。

そこで、一度私は代替案として、「自分がコピー代を負担する。コピーを渡すときに黒塗りしても良いからそれでやってくれないか」と頼んだことがある。
一応上司と検討してくれたようなのだが、その時の回答は、「1ページとかでは済まないですよね・・・。それを認めると作業量が増えるのでお断りします。」というものだった。

正直、「作業量が増えるから」という回答はいくらなんでもと思った。
それは作業は増えるだろう。
でも、ここは「公文書館」じゃないのかと。それなら、閲覧者に対してできるかぎりの便宜は図ってくれても良いではないか。それにこちらだってむやみやたらに請求するほど話がわからないわけではない。それに、コピー代もこちらが負担するとまで言っているのだから・・・。

とりあえず、私も相手の立場はわかったので、そこでそれ以上の交渉はしなかった。
でも、今回の法律は、先程も記載したが「利用請求権」が請求者側に発生している。
今後このような「見える部分まで巻き込んで不開示」になっている開示方法は、「利用請求権の侵害」と取られる可能性は大きい。
だから、複写して黒塗りという開示方法は是非とも取ってほしいと思う。

なお、予算がなくてもやり方なら色々ある。
例えば、デジカメで撮影し、それをモノクロでプリントアウトして黒塗りする(ないしはパソコンの画面上で黒塗りする)方法などは取れるのではないか。
最近はデジカメの性能も上がり、フラッシュをたかなくても自然光で十分綺麗に取れるし、真ん中の折り目の見にくいところでも、解像度が高ければ、資料を閲覧するときの文鎮を載せるぐらいの広げ方でも十分に解読することは可能だろう。
また、その資料全体の一部にだけ部分開示箇所があったとしても、国立公文書館のように資料全部をコピーする必要はなく、部分開示のページだけを複写して別ファイルに綴じ、どの部分のコピーなのかをわかるようにして出せばよい。

業者に頼まなくても、資料を傷めないで複写する方法はいくらでもある。
閲覧者は「解読できればよい」のである。絵巻物を見るわけではないのだから、最高級のマイクロ撮影をして紙焼きするといったような最高品質など全く求めていない。
もし、デジカメでも読みにくい部分が出たというならば、その時は改めて、その部分だけ拡大して再撮影するとかいった手段を取ればよい。
一律に、「複写する場合、資料保護のために業者に頼む」という考え方を取らなければ、いくらだって手段は考えられるはずだ。
まさしく資料保存の専門家が書陵部には集まっているのだから、そのあたりは柔軟に考えてほしいと思う。


・不開示規定の明確化
 資料を不開示にする場合の理由を各館の規則に明示すること。また、3館での不開示規定の共通化を行うこと。


現在、国立公文書館と外交史料館と書陵部では、不開示規定が異なっている
例えば、個人情報の不開示について比較をしてみよう。
規則をコピペするとものすごい長さになるので、リンクだけ貼っておきます。

まず、国立公文書館。→規則はこちら
第4条がその不開示規定にあたるが、まず注目したいのは作成から「30年」経過しているか否かで判断基準を分けていることである。

30年以内の文書は基本的には情報公開法と同じ基準で審査をされる。
30年を超えた場合「別表」に従うと記載されている。別表は上記のリンク先の下の方にあるが、どういった情報なら何年で出すかという基準が明確に記載されている。
この別表からは、個人情報は内容によっては次第に隠す意味がなくなるという「情報の劣化」という概念を用いていることがわかる。

「情報の劣化」とは、情報は、すぐに出されると何らかの損害を与える可能性もあるけれども、時間が経つと意味が無くなるものがあるということである。
例えば、公務員の勤務評定に関する文書は、当然その人が勤務している時に開示された場合には何らかの影響があるかもしれないが、定年退職した後だった場合、開示されても特に意味はなくなるわけである。
また、その人が亡くなったりしていた場合、その人の個人情報を守る必要性はかなり薄くなる。
世界のどの公文書館でも、こういった個人情報の段階的な開示規定というのは存在している。国立公文書館はその意味では世界基準に合わせているということになるだろう。

次に、外交史料館である。→規則はこちら
これの第4条が個人情報の不開示規定である。
これを見ると、国立公文書館と同様に「情報の劣化」の概念を用いていることはわかる。
ただ、国立公文書館と異なり、どういった情報を何年不開示にするのかは全くここからは読み取ることができない。
「個人の秘密」「個人の重大な秘密」「個人の特に重大な秘密」という文面で、何の情報が隠されているのかわかったらそれは超能力者である(苦笑)。
もちろん、内部には必ず基準はあるはずだ。それはきちんと公表しなければ、公文書館としての説明責任を果たしたことにはならないだろう。

最後に、書陵部である。→規則はこちら
この第4条が個人情報の不開示規定である。
これを見ると、まず「情報の劣化」という時間の概念が一切無いことがわかる。つまり、30年以上経過している文書でも、情報公開法と同様の不開示規定を当てはめるということである。
当然不開示部分は大量に増えることになる。

私から見ると、現在の国立公文書館の不開示規定は非常に明快であり、かつ個人情報でもある程度経過すれば公開されるという基準を取っており、それが理想的であると思われる(ただ、もうちょっと短い年数でもいいんじゃないかと思う項目はあるんだが・・・)。
このように基準を明確に公表すれば、説明責任も十分に果たせていることになる。

外交史料館と書陵部は国立公文書館の基準に合わせた不開示規則を作って、しっかりと基準を公開するべきだと思う。


・不開示文書でも管理簿には必ず登載する
 意見書提出による不開示でもファイル管理簿は作成し、国立公文書館等の中に、閲覧者から隠されたファイルが存在しないようにすること。


公文書管理法では、第16条などで、外交・公安情報に関しては、移管元の行政機関が「意見書」を提出し、不開示を要求することができるという仕組みが組みこまれている。
もちろん、不開示部分が少ないに越したことはないが、確かに外交上出せない文書というのはあるだろう。
ただし、各行政機関にあったときには当然に行政ファイル管理簿にファイル名が登載されているはずなのだから、国立公文書館等に移管されたときにそれが管理簿に見えなくなるというのはおかしい。

米国国立公文書館では、不開示文書があった場合、その場所に「不開示理由」「審査した担当官の名前」「いつ以降ならば再審査を行うか」という文書が入っている。またファイル名は管理簿に登載されている。
また、全て不開示の文書も、その目録の該当箇所に「不開示」と明記されており、どこに不開示のファイルが存在するのがわかるようになっている。

今でも、書陵部は公文書を「天皇の私文書」と称して、内部に文書を隠し持っているのではと疑われている。また、外交史料館も「全て出しているのか?」というのは常に疑われている。
やはりそこは、自ら規則に「不開示文書でも、管理簿にはきちんと登載する」という一文を設け、そういった疑いを晴らすことが必要だと思う。
外に見せている管理簿と、中で見ている管理簿は必ず一致していなければならない。特に、内部から内部の公文書館に文書を移管する外交史料館と書陵部は、その点、あらぬ疑いを掛けられないように、自ら進んで「ごまかしていない」ということを明言できる規則をきちんと入れておくべきである。


さて、ここまでは、実際に公文書管理法が施行されたときには必ず各館が対応しなければならない事項である。
法をきちんと読めば、私が記載したことは、必ず実行しなければならないはずだ。
是非とも、こういった点については、きちんと規則に反映させてほしいと思う。

長くなりましたので、2の部分は次回。
次回は、少し「提言」的なものを書いてみたいと思います。→第5回
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