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広島大学文書館の文書管理 [2009年公文書管理法問題]

先日の公文書管理フォーラムの前日、たまたま一橋で行われた研究会に小池聖一広島大学文書館長が招かれていて、大学アーカイブズについての報告をされた。
大学でアーカイブズを持っているのは、京都大学など数えるほどしかない。またあったとしても、歴史的に重要な文書だけを管理しているところが圧倒的に多い。

その中で、広島大学文書館は、大学の行政文書も管理する機関として設置されている。
このような制度ができた背景には、かつて外務省外交史料館に勤務経験のある小池氏の存在が非常に大きいと思われる。
今回、色々とお話しをうかがう中で、公文書管理法を考える上でも参考になる点がいくつかあったので紹介しておきたい。

○意思決定過程をどのように残させるか

「公文書管理法を読む」の第3回で取り上げたが、今回の公文書管理法案は、行政文書を「組織共用文書」に限っているため、政策を決定する「過程」が残らない可能性が高いことを指摘した。
しかし、小池氏によれば、広島大学ではきちんと意思決定過程を残させることに成功しているという。
そのための条件として小池氏は現役の文書から歴史文書に至るまでの全ての文書管理の統一の重要性について指摘していた。

まず文書館が文書管理のルールを作成し、それを各部署で徹底させた。
例えば、現在使っている文書、保存年限内でもほぼ利用していない文書などの保管場所などを明確にし、文書の移管・廃棄までの流れを文書館がきちんと把握した。

この徹底のために、小池氏はいくつか強引とも言えることを行っている。
一つめは、文書館が各部署にあったファイルを全て確認して、ファイル管理簿の整備を徹底化したことがある。
小池氏によれば、部署に乗り込んでいって、強引に棚を調べるなどの行為を行ったらしい。ものすごく嫌がられたと言っていたが・・・。これはもちろん小池氏が広大の教員であった=事務職員からすると断りづらい、という構図があったとは思う。

二つめは、事務職員に公文書管理をきちんと行うことがいかに重要なことかを時間をかけて説得したことが挙げられる。
小池氏は、事務職員が自発的に政策過程文書を残そうとしなければ、いくら制度ができていても実体を伴わないと考えており、文書管理のマニュアルを作成し、研修を徹底的に行ったようである(説得に2年かかったと話していた)。
結局この説得によって事務職員を味方につけることに成功し、学内の文書館に理解のない教授陣の反対を押し切って文書館を設立できたそうである。

小池氏が言っていた言葉の中で特に印象の深かったものに、

「保存年限の長さと文書の重要性はイコールではない」

ということがある。
現在の情報公開法における最長の保存年限は30年であるが、これに該当する文書はほとんどが決済文書か帳簿であることは、すでに「公文書管理法案を読む」の連載の中で指摘した。
つまり、「長く保存する=何を決定したか」というのが現在の文書管理の基本となっている。
でも、意思決定過程は決裁文書だけを残しても全く何もわからない。それはむしろ短期の保存期限で捨てられてしまう方に重要なものが入っていることが多いのだ。

つまり、「保存年限」という考え方は、そもそも職員の「業務参照」のために付けられた年限なのである。
だけれども、職員にとって参考になる資料と歴史的に重要な資料にはかなりずれがあるのである。

この事例を聞いていて思ったことは

1.文書館が現用文書作成から廃棄に至るまで、全ての管理に関わっている。
2.職員研修の徹底化を図る。


という2点の重要性である。
特に、1については納得できる点が大きい。そして今回の公文書管理法が、全くその点について不十分であるということも比較すると良くわかる。
ファイル管理簿の問題も連載の中で指摘したが、その点の解決法として文書館が部署に乗り込んでいってファイルを把握するという具体策が必要なのだということもわかる。

ただ、これは広島大学といった小規模の機関だからこそできたということはあるだろう。
しかし、国の公文書管理を考える上でも、広大方式のように、文書館側が現有文書への介入権を持たせるような法文は入れておく必要があるのではないかと思う。


○文書廃棄の方法

小池氏が話していた中でもう一点参考になったのは、文書廃棄の方法についてである。
今回の公文書管理法案は、文書廃棄の権限を全て自省庁が把握したままであることの問題は既に指摘した。
ではどのようにすれば機能するのか。その方法は二通りあるという。

1.期限の切れた文書を全て国立公文書館に移管して、専門員が廃棄するかを判断する。

この場合、誤廃棄ということはおきにくくなる。廃棄するか否かは全ての責任を公文書館側が負うことになり、省庁側にとっても情報隠しとの批判を受けずに済むメリットがある。
問題点としては、これを行うためには、「文書を整理するためのスペース」(具体的には巨大な中間書庫)、「整理のできる大量の専門家」が必要となる。現在の国立公文書館の体制では、1年分の移管文書を整理するのに数年かかるという状況が生まれる可能性は高いと思われる。

2.期限の切れた文書の廃棄簿を各省庁に作らせて、それに基づいて専門員がチェックをしに行って最終的な移管・廃棄の判断をする。

ルーティンに発生する文書の廃棄を行う場合、わざわざ専門員が決めるまでもないこともあるので、手間は省ける。また移管する必要のある文書だけを動かせば済むというメリットもある。
問題点としては、各省庁による恣意的な廃棄を専門員がどこまで見破れるかということがある。そのため誤廃棄の可能性は上がる。

小池氏によれば、前者を取っているのが京都大学文書館、後者が広島大学文書館だそうである。そして、少人数で公文書館を運営するのであれば、後者の方が効率的であるという話であった。
私も、1の方が理想的だと思うが、現状の国立公文書館の規模では2を選ぶ方が現実的ではあると思う。

小池氏のアーカイブズ論は、現場でどのように使えるかということに重点を置いたものであるので、理想主義的アーカイブズ論からはかなり遠いところにある。そのために、小池氏の主張に違和感を感じる人も多いのではないかと思う。
ただ、実際に広島大学という場所で実践をしているという経験は、何よりも得難いものであると思う。
下記に紹介する本に、その主張の多くは載っているので、是非とも興味のある方はお手に取っていただけたらと思う。ご本人曰く「売れねえんだよなあ・・・」とおっしゃってましたけど。

小池聖一『近代日本文書学研究序説』現代史料出版、2008年
A5判/上製/380頁/本体価格5,800円/ISBN978-4-87785-184-2
http://business3.plala.or.jp/gendaisi/xml_files/4-bunsyogaku.xml
http://www.7andy.jp/books/detail/-/accd/32130949

せめてAmazonぐらい登録しようよ、現代史料出版さま・・・
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