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【連載】公文書管理法案を読む(第3回)―問題点(1) 公文書の定義 [【連載】公文書管理法案を読む]

第1回はこちら
第2回はこちら

公文書管理法案を読むの第3回です。
今回から数回かけて、公文書管理法案の問題点について述べていきたいと思います。

公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)案はこちらなので、法案を参照しながら見ていただければと思います。

第3回 問題点(1) 公文書の定義

公文書管理法案の第2条には、この法律で使用される用語の定義がなされている。
この中で一番重要なものは、「行政文書」の定義をしている第4項の部分である。(「法人文書」も同様だが内容がダブるので省略。)
長いが重要なので引用してみよう。

4 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)を含む。第十九条を除き、以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
 一 官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの
 二 特定歴史公文書等
 三 政令で定める研究所その他の施設において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの(前号に掲げるものを除く。)


先に「ただし」以降だけ説明すると、「一」はすでに公刊されているので図書館等の別の所で見てくれということ、「二」は国立公文書館に移管された文書、「三」は国立公文書館以外で保管されている行政文書(国立博物館など)のこと。この3点は特に問題ない。

問題なのは前半である。
特に、「当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして」の部分はものすごく注意しなければならない。

さて、この何が問題であるのか。
実はこれは情報公開法の行政文書の定義と同じである。
情報公開法を引用してみよう。(第2条)

2 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
 一 官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの
 二 政令で定める公文書館その他の機関において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの


ちなみに、この情報公開法の条文は、今度の公文書管理法の制定と合わせて改正される。もちろん、公文書管理法の第2条第4項と同じ文面になる。

さて、このことからわかるように、公文書管理法における行政文書の定義は、情報公開法を引き継いでいることは間違いない。

では、情報公開法と同じで何が問題であるのか。
実は有識者会議の最終報告が出たときの私の解説に、すでにこのことは一度記載してある。→こちら
その時に書いた文章を引用してみる。

この文章(引用注:上記した情報公開法第2条第2項)で最も重要なのは、行政文書は「組織的に用いるもの」のみという限定がついていることだ。
これだと、政策立案した時の文書などを「私的なメモ」と分類して勝手に破棄することができるようになってしまう。また、「共有」ということだから、結果的に「決裁文書」のみしか残らずに、なぜそのような政策が行われたのかについては追跡できないのである。

有識者会議の第3回の時に、高橋滋委員が情報公開法の組織共用文書の定義を公文書管理法に適用することに明確に反対していた。
高橋氏はこの時に、「記録保存型文書管理」の視点から文書管理を行うべきだと主張した。
つまり、その「適切な管理保存」とは、「当該意思決定の存在、過程、経緯を後に合理的に跡付けることができるために最低限度必要となる資料を残す」ということである。→詳しくは私の解説


「組織共用文書」という概念は、要するに「組織として共同利用した文書」ということである。
こうすると、例えば、最初に案を作って、色々な部署に根回しなどをしているときの文書は、「組織共用文書」といえるかは実はグレーゾーンである。

では、そもそも情報公開法の担当部署である総務省が、この「組織共用文書」をどのようなものだと考えているのかを、情報公開法の施行令第16条別表第二にある「30年保存しなければならない文書」として挙げているものから見てみる。


イ 法律又は政令の制定、改正又は廃止その他の案件を閣議にかけるための決裁文書
ロ 特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政官庁の認可を要する法人(以下「認可法人」という。)の新設又は廃止に係る意思決定を行うための決裁文書
ハ イ又はロに掲げるもののほか、国政上の重要な事項に係る意思決定を行うための決裁文書
ニ 内閣府令、省令その他の規則の制定、改正又は廃止のための決裁文書
ホ 行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等(以下単に「許認可等」という。)をするための決裁文書であって、当該許認可等の効果が三十年間存続するもの
ヘ 国又は行政機関を当事者とする訴訟の判決書
ト 国有財産法(昭和二十三年法律第七十三号)第三十二条に規定する台帳
チ 決裁文書の管理を行うための帳簿
リ 第十六条第一項第十号の帳簿
ヌ 公印の制定、改正又は廃止を行うための決裁文書
ル イからヌまでに掲げるもののほか、行政機関の長がこれらの行政文書と同程度の保存期間が必要であると認めるもの


わかりにくいと思うが、要するに「決裁文書」と帳簿だけが並んでいることだけわかってもらえればよい。
つまり、「決裁文書」だけ残っていれば問題ないというのが、官僚側の総意なのである。
そうなれば、当然途中の「政策過程」の文書は残ってこないのである。

そして問題なのは、これはおそらく「悪意」があってのことではない。
官僚の意識として「決裁文書を残せば説明責任に足る」と思っているところに、この問題の根深さがあるのだ。

今回の公文書管理法案には、第4条として次の文章が入った。

行政機関の職員は、当該行政機関の意思決定並びに当該行政機関の事務及び事業の実績について、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、政令で定めるところにより、文書を作成しなければならない。

これは、意思決定についてきちんと文書を作らなければならないという条文で、非常に評価できる。
ただ、この条文をあえて前回、評価点に入れなかった理由は上記してきたとおりである。
つまり、この第4条が入ったとしても、その「意思決定過程」=「決裁文書だけでOK」という認識がそのまま引き継がれるのであれば、結局は骨抜きになるのではないかという危惧が私にはぬぐえなかったのだ。

現在、そして未来に対する説明責任とは、「何をやったか」だけでは果たせない。
「なぜやったのか」「どのような手続きを踏んでやったのか」ということがわからなければ、説明を果たしたことにはならないのである。

よって、公文書管理法第2条第4項は、行政文書の定義を拡大し「記録保存型文書管理」に近い文章に直すべきだと考える。

以上で第3回は終わり。次回は、問題点の(2)として、文書の移管廃棄問題を取り上げます。→第4回


補足
昨年制定された「国家公務員制度改革基本法」の第5条には、以下の文面が記載されている。

3  政府は、政官関係の透明化を含め、政策の立案、決定及び実施の各段階における国家公務員としての責任の所在をより明確なものとし、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資するため、次に掲げる措置を講ずるものとする。
一  職員が国会議員と接触した場合における当該接触に関する記録の作成、保存その他の管理をし、及びその情報を適切に公開するために必要な措置を講ずるものとすること。この場合において、当該接触が個別の事務又は事業の決定又は執行に係るものであるときは、当該接触に関する記録の適正な管理及びその情報の公開の徹底に特に留意するものとすること。
二  前号の措置のほか、各般の行政過程に係る記録の作成、保存その他の管理が適切に行われるようにするための措置その他の措置を講ずるものとすること。


有識者会議最終報告もこの点を配慮した上で、文書の作成等について考えるべきだと記載していた(P5)んだが、どうやら官僚達には無視されたみたいだ・・・

追記
第4条の文書作成の部分は大幅に修正された。詳しくはこちら。
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2009-06-12
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