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【連載】公文書管理法案を読む(第1回)―公文書管理法とは何か? [【連載】公文書管理法案を読む]

既報のとおり、3月3日に公文書等の管理に関する法律(公文書管理法)案が閣議決定されました。

そこで、本日より数回かけて、公文書管理法案の要点、問題点について書いていきたいと思います。
今後は、左の柱のカテゴリーに「2009年公文書管理法問題」を新設して、そちらに記事をまとめていきます。

まず第1回。今回は公文書管理法案がなぜ必要なのかという説明からしていきます。

公文書管理法案はこちらなので、法案を参照しながら見ていただければと思います。


第1回 公文書管理法がなぜ必要なのか。
・「国民に対する説明責任」

 この説明をするためには、「国民主権」ということから考える必要がある。
 国民が主権者であるということは、政府は国民から政治を委託されているという関係になる。
 そのため、政府の側は国民に対して、行った施策に対して説明責任を有することになる。

 この「説明責任」という概念が、日本では非常に弱いことが長年言われてきた。
 2001年に施行された情報公開法は、国民が政府の施策に対して情報の開示を求めることができるようにした法律であった。
 この法律は、政府、官僚側に対して「説明責任」を果たさなければならないという意識を植えつける意味でも重要な意味を持った。

 ただ、一方で大きな問題が持ち上がってきた。
 それは、「情報そのものが作られない」「情報を勝手に捨てて無かったことにする」という問題である。
 情報公開法はあくまでも「存在する公文書」に対する情報開示を求めるものである。つまり、実際の公文書がなければ、開示請求は意味をなさなくなるのだ。

 これが起きた理由は、「公文書管理法」がなかったためである。
 つまり、「施策を行う際には説明責任を果たす文書を作成・保存しなければならない」「廃棄は勝手にしてはいけない」ということを規制する法律がなかったのである。
 諸外国の事例を見ると、ほとんどの国では、むしろ「公文書管理法」が先にできて、「情報公開法」が後にできるという方が普通である。この二つの法律は国民への説明責任の核となるものとしてセットで考えられているのである。


・「未来に対する説明責任」

 次に、上記してきた「説明責任」について補足しておきたい。それは「未来の国民に対する説明責任」である。
 今までの説明は「現在の国民に対する説明責任」という話で進めてきた。
 だが公文書管理法の理念はそこに留まらない。

 現在政府が行っている施策は、その後数十年、場合によっては数百年後の未来にも影響を及ぼす可能性がある。
 例えば、現在の日本の政治システムが作られたのは、1945年の敗戦直後の改革の時である。
 この時の改革は、現在でも良かれ悪しかれ、我々の社会を規定している。
 もし現在を分析しようと思った場合、過去にさかのぼって、どうして今のような状況が作り上げられたのかを調べる必要が出てくる。その際に、きちんと「何をしたのか」がわかるような公文書が保存されている必要がある。

 つまり、公文書をきちんと作成し、それを保存するということは、「未来の国民に対する説明責任」を果たすことにつながるのである。
 だが残念ながら、明治以降の日本の官僚制は、きちんと説明責任を果たせるような系統立てた資料をほとんど残してこなかった。
 そのため、連合国占領期の改革を知るためには、アメリカの資料を使う以外に研究できなくなっている。これは占領期に限ったことではなく、日本戦後史を描くためにはアメリカに行かないと研究できないのが現状である。
 
 これまで、この「未来に対する説明責任」ということは、「現在に対する説明責任」以上に忘れ去られてきた。
 今回のこの法律は、その「未来に対する説明責任」が明記されている。
 この法律自体は、自分たちの子どもたちへ、現在の自分たちの政府が何をしたのかの記録を残させるものであるということは、頭の片隅においてほしいと思う。


・行政の効率化にも役立つ

 これまでの公文書管理のあり方は、官僚個人レベルに任されてきたと言っても過言ではない。
 一応、どの時にどのような文書を作らなければならないかという規則はあるのだが、どこまで守られているのかはよくわからない。
 そのため、関連文書を探すのも「だいたいこのへん」という担当者の勘で行われている。ファイル管理もきちんとなされていないし、情報管理自体も杜撰である。→有識者会議第5回資料6にそのあたりの実態は記載。
 また、担当者が変わってしまえば、文書の引継もきちんと行われないことも良くあり、以前にやっていた作業や施策が滞ることもありがちである。

 この公文書管理のあり方は、非常に作業効率を低下させている。また過去の経験を個人レベルでしか消化しておらず、組織としての経験に昇華できていない。
 そしてこのことが政策作成力の弱さにつながっている。→私が過去に書いた記事を参照
 公文書管理法は公文書の作成から保存まで、きちんとカバーする法律である。これがまともに機能すれば、過去の蓄積をもっと効率的に政策に生かすことができるようになる。つまり、「説明責任を果たす」というのは、同じ官僚仲間(将来の後輩)に対する説明責任でもあったりするのだ。
 
よく、この法案が官僚叩きだと勘違いしている人もいるようだが、そうではない。
これは官僚達にとっても、自分たちの業務が効率化され、政策作成能力が向上し、そして自分たちの仕事が「歴史」としてきちんと保存されるという、プラスの要素が多い法案なのである。


・なぜこの時期に公文書管理法案が出てきたのか。

 今回の、この公文書管理法の法案作成には、いくつかの偶然が重なった。

 最も大きかったのは、この問題に長年取り組んできた福田康夫衆議院議員が首相になったということである。→福田議員のこの問題への関わりについてはこちら
 福田元首相は、小泉内閣の官房長官時代から、公文書管理についての私的な懇談会を立ち上げており、首相になってからすぐにこの問題に取り組み、「公文書管理担当大臣」を任命し(現在は小渕優子氏)、「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」を作り、法案作成を強力に推し進めていった。→会議の内容については私の連載参照
 有識者会議は最終報告書を11月に提出しており、今回の法律はその最終報告に基づいて作られたものである。→最終報告についての私の解説はこちら
 
 もう一つの追い風は、社保庁の年金問題や厚労省のC型肝炎資料放置問題、防衛省の「とわだ」航海日誌破棄問題といった、まさに公文書管理のずさんさから起きた事件が社会問題化したことであった。
 この一連の事件は、公文書管理法自体が絶対に必要であるということを、政治家や官僚も含めて認識せざるをえない状況に追い込む働きがあった。
 そのために、公文書管理法はこの通常国会に提出されることになったのである。

 なお、この公文書管理法は、野党の民主党にとっても重要法案と位置づけられており、党内にこの法案に対する作業チームが組まれている。前にこのブログで紹介した逢坂誠二議員などもこのメンバーに入っている。
 5月ぐらいに、国会でこの法案についての審議が行われる予定らしい。その時には、与党野党ともに熱の入った議論になることが予想される。

 ただ、解散になってしまうと、法案自体が廃案になってしまうので予断を許さないが、麻生首相が任期切れまで粘るのであれば、おそらく重要法案として国会で取り上げられることになると思われる。

以上で第1回は終わり。次回は、この法案の内容についての紹介をする予定。→第2回

追記(3/8)
以下に紹介する二つの記事は、この公文書管理法をわかりやすく説明していると思います。

・上川陽子議員(元公文書管理担当大臣)と尾崎護有識者会議座長の対談(上川議員のサイトに記載)
http://www.kamikawayoko.net/media/2003/2008102301.html

・政府公報「日本の過去・現在・未来をつなぐ公文書管理」(有識者会議の委員であった尾崎護、宇賀克也、加藤陽子、野口貴公美各氏の座談会)
http://www.gov-online.go.jp/pr/media/magazine/ad/images/ph224b.pdf
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