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【連載第1回】「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録を読む [【連載】公文書有識者会議]

「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」が設置されてから2ヶ月近くが経過した。
年金問題や厚生労働省の書類放置問題、防衛省の航海日誌破棄問題と、公文書管理のずさんさが実際に国民に影響を与えていることが浮き彫りになったこともあり、追い風が吹いていることを実感する。
また、福田首相肝入りの会議であるせいか、非常に活発な議論が展開されており、私としても非常に期待をして見ている。

今回より、この会議の議事録の紹介と解説をしていきたいと思う。
できるかぎり、前提となる知識無しで読めるように努力したい。それなので、一回一回がえらく長くなります。申し訳ないです。
とりあえず前提として、以下の私の記事を参考にして下さい。

公文書管理問題って何?
福田氏と公文書管理問題
公文書管理問題がなぜ今問題になるのか?
もっと具体的に(防衛省の航海日誌破棄問題に関して)
有識者会議って何?

さて、そうは言っても、内容が説明と合致している訳ではないから、少し経緯から話を始めます。


そもそも、公文書とは行政機関等が事務の遂行のために作成する文書のことである。
もちろん、作ったからには、最終的には専門機関で保存するか、廃棄するかを決めなければならない。
日本ではこの保存機関として「国立公文書館」が置かれている。
しかし、この国立公文書館は全くといってよいほど権力がない。

公文書とは、そもそも国民の税金で賄われている行政が何をしたのかを説明するための文書でもある。
だから本来ならば、国民への説明責任として、これらの文書をきちんと残す必要があるのだ。
だが、現在のシステムは、各省庁側に公文書を残すか破棄するかの権限を持たせている。
そのため、そもそも説明責任を果たすべき文書が作られなかったり、勝手に破棄されたり、省庁の中で隠されたりということが今でも行われている。
これが原因となって、年金問題などが起きているということは、みなさんもご存じではないだろうか。

そこで現れるのが福田康夫氏である。
福田氏は昔、地元の支援者から、前橋市の第二次大戦直後の写真をほしいので探してほしいと依頼されたことがある。
その時に、役所などに問い合わせても全く見つけることができなかった。ところが、アメリカの国立公文書館に行ったときにその資料を探したら、わずか10分で該当する写真が出てきたのだ。
福田氏はその時に公文書問題に関心を持ったらしい。
その後、小泉政権の官房長官時代に、有識者会議を設置して様々な制度の検討を行ったのである。(この会議については、上記の「福田氏と公文書管理問題」参照。)

そして福田氏は首相になって、この問題に積極的に取り組み始めた。
そこで設置されたのが、始めに書いた「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」である。
またこの時に同時に、公文書管理担当相が設置され、上川陽子少子化担当相が兼任することになった。
今回の有識者会議は、官房長官時代の会議の延長で置かれており、メンバーも相当に重複している。(そのあたりは、上記の「有識者会議って何?」に解説。)

この有識者会議のメンバーを少し分類して見ると(敬称略)

官僚出身・・・尾崎護(座長)
行政法学者・・・宇賀克也、高橋滋、後藤仁、野口貴公美
歴史学者・・・加藤陽子
その他・・・朝倉敏夫(マスコミ)、加藤丈夫(財界)、高橋伸子(ジャーナリスト)


1回目の会議の自己紹介(議事録P3~5)を見ていると、高橋伸子氏以外は、この問題についてそれなりの知識がある人がそろっているようである。

第1回目の会議では、まず基本的な制度についての解説があった。
見ておくべき資料は、とりあえずは
資料4 現在の公文書管理の仕組みについて〔PDF〕
資料7 我が国の公文書館制度について〔PDF〕
の2つである。

資料4は、現在の公文書管理の仕組みを図示したものである。
見てもらえれば良くわかるが、情報公開法やその施行令で色々な文書管理の規則があるのだが、それは各府省の管理規則によって実行されており、国立公文書館が蚊帳の外に置かれていることがわかるであろう。

資料7は、国立公文書館の解説である。
注目すべき点は、国の公文書を管理する機関なのに「独立行政法人」であること。そして、職員がたったの42人しかいないことである。

この資料を基に、会議でフリートーキングが行われた。いくつか興味深い発言を拾ってみよう。

まず冒頭で上川大臣から、この会議での主な論点を5点挙げた。

1.公文書管理を行う意義・目的とはなにか。
2.歴史的文書の保存という観点から、民間の貴重な文書等も含めた文書管理のありかたとは。
3.公文書の作成・移管・保存(廃棄)までの文書のライフサイクルの確立方法は。
4.デジタルアーカイブズをどうするか。
5.国立公文書館の権限強化をどうするか。(公文書館推進議員懇談会の緊急提言も参照→詳しくは私の解説

そして、各省庁の大臣に、当分の間、文書廃棄の中止をお願いしたと発言した。
これは非常に重要なことである。情報公開法ができたときに、施行直前に省庁にとって都合の悪い文書が大量に破棄されたということがあったように、制度ができる直前に、むりやり文書を破棄することなどがまた行われてはたまらない。
守られるかは別として、このお願いにはそれなりに実効性があるだろう。

そして、山崎日出男内閣官房公文書管理検討室長(最近設置された)が、簡単な制度解説を行った。
その際に、山崎氏は、有識者会議の中心議題として、「法制度の検討」「国立公文書館の体制整備」を明確に打ち上げた。
内閣府はかなり本格的に制度に手を付ける覚悟はあるようである。

その後、ざっくばらんに色々と話があったのだが、注目した発言は以下の通り。

・加藤陽子氏
「一番時間がかかりそうなのは、検討項目3の、恐らく文書管理の3つ目の黒丸でしょうか〔注:上川大臣の発言の3点目〕、制度の適正運用を確保する仕組みの在り方、ここではないかと。つまり、日本は戦前と戦後というのはやはり45年でくっきり分かれているところでありますし、例えば外務省、例えば防衛省、それぞれ資料館のようなものを持ってきていると。それ以外も今さまざまに各省でも記録管理がなされている。ですから、それをどうやって統合し、例えば今上川大臣が廃棄をしばらくやめてくれと閣僚懇談会でおっしゃられたというのは非常にいいことだと思いまして。すべての閣僚の方が大事だ、大事だ、捨てるな、もったいないということを言う方向と、1つは非常にしっかりとした制度をつくって、各省割拠というんでしょうか、これを理念上でも統合し、例えば廃棄についてその処罰規定というんでしょうか、そういうところを法できっちり押さえるぐらいまでをカバーできたら非常に各省割拠の統合というモデルがこの文書管理を通じて実は1つできるんじゃないかなぐらい思っています」(P14-15)

→この話の前提にあるのは、現在、国立公文書館に全ての官庁が移管されているわけではないということである。
つまり、外務省外交史料館や防衛省防衛研究所、宮内庁書陵部がこれにあたる。(防研は戦前の軍の資料のみ)
各省庁の文書管理制度の統一化だけでなく、出口の公文書館の統一化も視野に入れた発言だと思われる。

・尾崎護座長
「国立大学でも国立病院でも相当の収入があるわけです。しかし公文書館は何も収入がないんですよね。何も収入がないということはまさに税金でやる国の仕事なんですね。それを独立させて、一体そこから何が生まれてくるのかということを考えてみると、やはり真面目に考えれば国の機関に戻すべきだというこの提言のような考え方に行き着くんじゃないかと思うんですが。」

→国立公文書館を独法化したことがそもそも間違いだということである。座長が国立公文書館の国家機関への復帰を明言しており、この後の議論も、この流れで続いている。

・他には、中間書庫問題も話し合われているが、これは今後の話で出てくるので省略。それと、加藤陽子氏が、文書管理学をきちんと学んだ人材を育てるべきだということも話されていた。
加藤氏は自己紹介の所から、アーカイブズの視点からも発言するというようなことを述べており、歴史学+アーカイブズ学の立場を鮮明にしているのは心強い。

とりあえず1回目の会議は、ざっくばらんな話でおしまい。次回以後に細かい話に入ることになった。

最後に注目したいのは、内閣府政務官の戸井田とおる衆院議員である。
この方は完全な右派的な政治家なのだが、以前から「国益からの公文書館強化論」をぶちあげている。
例えば、戸井田氏のブログの2007年10月4日の記事や、10月18日の記事など。

さすがにここまでの国益論は、逆に「国益に反する文書は隠す」という議論にもつながりかねない(実際に戸井田氏も、有識者会議の議事録P25で、学習院大学の教授からその点を指摘されたらしい。高埜利彦さんかな?)ので、正直どうかと思うが、でも右派の人からこういった「ナショナル・アーカイブズ」を建てる際の真っ当な意見が出るのはいいことだと思う。
そもそも国立公文書館とは、「国家の記憶」を保管するものである。だから、設置理念はナショナリズム全開で全く構わない。
ただし、そこに移管されるものは、イデオロギーにとらわれずになされなければならない。
時代が変われば歴史観も変わる。資料の読み方も変わるのだ。

さて、そろそろ長いし、論点もずれつつあるので、今回はこれまで。第2回は数日中にアップする予定。

第2回へ続く
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