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宇賀克也氏「公文書等の管理、保存の課題」を聞いて [情報公開・文書管理]

昨日、記録管理学会や全史料協共催の特別講演会「文書管理法(仮称)の制定に向けて」に参加してきた。
講演者は、例の福田首相の「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」のメンバーでもある、宇賀克也東大教授であった。情報公開法の制定にも関係していた行政法の第一人者である。
何となく先入観で、「法学者」「審議会に関係している」という所で、ものすごく控えめなガチガチの話をするのかなと思っていたが、良い意味で裏切られた感じだった。
このブログで繰り返し書いていることは除き、興味深いことを少し拾って書いておきたいと思う。

・国立公文書館への移管文書の拡大について。
宇賀氏は、国立公文書館に「独立行政法人の文書」「国の機関(独法)であったが、民営化された企業の当時の文書(国鉄、郵便局、道路公団など)」を移管させるだけでなく、「歴史的に重要な民間文書」も収集されるべきだと主張されていた。
独法については、情報公開法の対象でもあるので、これはすぐにでもできる可能性はありうる。
民営化された企業については、確かに重要なのは間違いないが、果たしてどこまで当時の文書を残しているかが気にかかる。またこれを移管するためには政治力が必要になるだろう。

問題は「民間文書の収集」である。以前、公文書館推進議員懇談会が提出した提言にも書かれていたことで少しブログで紹介したことがあるが、私は個人的には国会図書館の憲政資料室の拡充で対応(実際には近現代史史料館ができるのが一番良いのだが)の方が良いとは思っている。
ただ、今回宇賀氏は面白いアイデアを話されていた。
それは、「登録公文書制度」である。

これは、「登録美術品制度」というのがあるらしく、個人が所有している美術品を登録して展覧会などに貸し出したりすると、税制が優遇されるというものらしい。
そのアイデアを元にして、歴史的に重要な公文書を国立公文書館等に寄贈すると、税制優遇(相続税の物納としても可能)措置が取られるような仕組みを作ったらどうだというのだ。
何を「歴史的に重要」と見るのかという判断が難しいとは思うが、アイデアとしては面白いと思った。

・文書の作成義務の明確化
宇賀氏が今回特に強調していたなと感じたのが、「存在する文書を管理」するだけではダメで、「作るところから管理」しないとダメだということだ。
これは非常に真っ当な意見であり、かつ官僚が最も抵抗する可能性の高い所だ。

その中で言われてなるほどと思ったのは、「情報公開」には2種類あるという話だ。
つまり

○「情報」の公開
○「情報が記録された媒体」の公開


である。
日本では後者の方の公開になっているが、ニュージーランドなどは前者の公開になっているらしい。
前者の場合は、文書が不存在でも、存在する制度や当時の職員からの聞き取りなどでわかりうる限りの情報を集めて、「文書を作成」して公開するというものである。
もちろん、前者を徹底するのは相当にしんどいわけだけど、要するに前者レベルの文書をきちんと作って残すことを徹底させる必要があるということなのだろう。

・新たな「半現用文書」概念の創出
今は「非現用」、つまり使い終わった文書しか、国立公文書館には移管されていない。そして文書には保存年限があるのだが、各省庁はそれを延長することで、多くの古い文書を事実上の永年保存文書として大量に保存している。
だから、宇賀氏は、文書の保存年限が来たら全て国立公文書館に移管し、もし必要なら写し(コピー)を省庁側が持てば良いのではないかということを提言していた。
ただし、その原本は国立公文書館の開示基準で閲覧可能にするというやり方である。
確かにこれをすると、事実上の永年保存化している文書の原本を各省庁が保持している理由はなくなる。これは実行可能なアイデアだと思う。

・文書管理の「司令塔」機能のありかた
宇賀氏は、内閣総理大臣を公文書の「総括管理機関」とし、内閣府の外局として、委員会か庁として公文書管理だけでなく管理全般の企画立案・調整機能を付けた政策庁を作るのが理想であると語る。
つまり、私の頭に想定のある「国立公文書館の権限強化による公文書管理の徹底化」という話よりは、アメリカのNARA(連邦記録管理庁)のような強力な文書行政機関を設立して、その下に国立公文書館を入れるという案のようである。
確かに、現在の貧弱な国立公文書館の権限を強めるより、新たな官庁を作ってそこに権力を集めるというのは手なのかもしれない。
しかし、そこまで今回の有識者会議は踏み込んでいくんだろうか。

また、質問したかったのだが(質問時間が全然無くてできなかった)、もし「統括管理機関」を設立した場合、「出口」となる非現用文書の収容機関の統一化は考えなくて良いのだろうか。
つまり、外務省外交史料館と宮内庁書陵部をどうするのかという点である。
現在でも、この2つは、国立公文書館ではなく、自分の省庁にある文書館に文書を移している。
こことの整合性はどうするんだろうか。

私は、この外務省と宮内庁の存在が「統括管理機関」設立の妨げになるんじゃないかと思っている。
今のような各官庁が文書の管理権限を持っている体制の元ならば、外務省と宮内庁の特別な位置は大して問題にはならない。
でももし統括管理機関を作るなら最大の抵抗勢力はこの二つになることは目に見えていると思う。


以上が、面白そうな部分を拾った所である。
ただ、この宇賀氏の話は、「最もポジティブな理想論」であると思う。
つまり、宇賀氏が有識者会議の内部でどこまで踏ん張るのか、ややわからない所がある。

以前一緒に例会をやった、同じ有識者会議メンバーの高橋滋氏は、現実を見据えた上でどこまで行けるかを計りながら話をされていたように感じる。
一方宇賀氏は、ぶちあげるだけぶちあげておいて、どこまで妥協案を出させるかというような戦術なのかなという感じもする。
今回話したレジュメとほぼ同じものが、有識者会議の第3回目の会議の配布資料の中にあり(資料2)、会議でも同じ事を話されていることはわかった。
なので、この宇賀氏の理想論をどこまで世論として支えることができるのかを考える必要があるように思う。

あと、最後に話されていたが、今回の「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」は6月には中間報告を提出し、パブリックコメントを募集し、10月には素案を作るというスケジュールらしい。
やはりあまり悠長に構えている場合ではないようだ。パブコメは所詮官僚のアリバイ作りでしかないという話もあるとはいえ、何か書いて送ってみようとは思っている。

しかし長い文章だ。2回に分ければ良かったか・・・。
GW中に、有識者会議の現段階での議論を紹介できればと思う。


追記(5/6)
「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録を読んでいる中で気づいたことがあったので補足。

まず、宇賀氏の理想論は、どうやら会議ではそれほど浮いているわけではないようである。高橋氏も含めて、公文書管理庁設立を主張する委員は非常に多い。中間報告にどう反映されるかが注目される。(詳しくは、この記事の次以降に記載されている連載を参照)

あともう一点。
私が質問したかった、出口機関の統一について、宇賀氏が有識者会議の第3回会議録のP17でつぎのように述べられていた。

「最後に歴史的文書のすべてが国立公文書館に移管されるわけではなくて、外交史料館とか宮内庁書陵部等にも移管されておりますが、国立公文書館と比較いたしまして、こうした他の歴史的文書保存機関の場合にはいろいろと不備が多いというふうに考えております。
閲覧拒否の場合に、それに対して不服を申し出て、第三者機関でインカメラ審理をするということを、国立公文書館は既に行っているわけですけれども、こういう制度はすべての歴史的文書において認められるべきと考えますので、外交史料館等においても、こういう点について法整備をしていく必要があるのではないかというふうに考えます。」

素晴らしい。さすがに宇賀氏は気づいておられたみたいだ。これが中間報告に反映されるかは別として、きちんと問題として認識されていることがわかってほっとした。
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コメント 2

so

soです。情報ありがとうございました。
学会としてもパブコメを出すよう準備した方がいいでしょうね。
またお手伝いいただくかもしれません。
by so (2008-04-25 12:22) 

h-sebata

了解です。他の学会の動きもにらみながら共同でパブコメが出せれば良いと思うのですが。また話し合いましょう。
by h-sebata (2008-04-25 14:12) 

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